第4話(前編)

トム・ソーヤーの罠(パート1)

皆さんは、「トム・ソーヤーの冒険」という物語をご存じだろうか。


その中の一つの話、第二章にこんな話がある。


主人公のトムが、ポリーおばさんから罰として課せられた塀のペンキ塗りを

友人たちに自らやらせたいと思わせ、しかもその交換条件として、物品をせしめて

しまうという話だ。


自らめんどくさいことをやらない代わりに、他人にやらせる。そして自分は美味しい所持ち。


いいですね。


しかし、そう物事という物は上手く長く、続く物では、ありません...。






今日も督促状が来た。


「チッ...」


ビリビリに破り捨てて、ゴミ箱に入れた。


缶コーヒーを開け、一口啜った。


こうなったのは自分の責任でもある。

大学生時代に親友だった人物の連帯保証人になっていた。


彼女は信用出来たし、彼女の両親は裕福だった。


しかし、彼女の父親の会社が倒産、借金を返せなくなり

そのツケが私に回って来た。


親友はギャンブルにハマっており、その借金の額は数千万にも及んだ。

返しても返しても・・・、終わる事は無い。


このループにピリオドを打ちたかった。


私は、PCの技術だけは人一倍あった。


ある計画を思い付いたのだ。

警察にも捕まらない、完璧な方法を。




某大型掲示板、こんな書き込みをした。



“このエロ画像ぐう抜けるwww→http//...”



大体こういう書き込みをすれば、何人かリンクを踏むだろう。

私がこのリンクに仕組んだのはPCウィルスだ。


相手のPCに入り込んだウィルスがネットバンクを襲撃する。

盗んだ金は、自分の口座に入れる。天才的なシステムだろう?


他国のサーバーを経由して送金する仕様にしたから、

私が足を地に着ける事は無いし、

騒ぎになったとしてもウィルス感染者が捕まるだけだろう。


これこそ、少し用件は違うが、トムソーヤーの冒険の一説だ。

自分のやりたくない事を他人にやらせ、その報酬を自分が得る。


私はこれでこの地獄から抜け出せるのだ・・・。


それからいくつかの掲示板に文面を変え、URLを記載した。












「うぇぇ...」


私は未だ、死体を見る事に慣れなかった。



「被害者はニホンオオカミ...、フリーター」


フェネックがそう被害者の身元を伝えた。


「包丁で背中をひと刺しですか・・・」


かばんは机に突っ伏した被害者を横から見ながらそう言った。


「被害者のパソコンが気になりますね」


「鑑識に回してみるよ...」



「先輩、犯人はどうやってこの部屋に侵入したんでしょうか?」


「犯人が忍び込んだんだろうね。でなきゃ、机に突っ伏して死なないよ」


フェネックが言った。



「僕は、犯人はこの人物に殺意のある者による犯行だと思いますね」



≪京州署 刑事課≫


「こんにちは」


唐突に刑事課に現れたのは、ここの署長のカバだった。

皆反射的に、立ち上がった。


「どうしたんですか、署長」


フェネックが先立って尋ねた。


「今回の殺人事件の件あったでしょ?

その件で中央署から連絡があったのよ」


「ちゅーおーしょって・・・」


「警視総監がいる全国警察の本部じゃないか」


サーバルとカラカルは顔を見合わせた。


「どんな用件で?」


かばんは尋ねた。


「被害者のパソコンを調べたらね、中央署の方で捜査している

ウィルス事件のファイルがあったのよ。だから、専門のサイバー対策課がある

中央署と京州署の合同捜査にしたいって、中央署の方から依頼があってね。

こっちから人を派遣しようと思って、声を掛けたのよ」



「中央署には知り合いがいますし、僕が行きましょうか」


「そう言えばそうよね。じゃあ、あと一人は・・・」


カバはゆっくりと目を動かした。


「あなたに行ってもらおうかしら?」


「えっ、あっ、わっ、私ですかっ!?」


なんと先輩の付き添いとして、中央署へ行く事にしたのだった。






≪中央署 総監室≫


「どうですか?私は賢いので、この事件を解決するために京州の変人を呼んだのです

あなたも嬉しいですよね?」


「・・・いえ、私は何も思いません。その件に関しては」


「冷たい態度を取るのですね。かつての“相棒”と会えるのに・・・」


「“相棒”ですか・・・」







≪白千空港≫


飛行機を使ってはるばる京州から、この白千都(はくせんと)までやって来た。


「なんで私らがアイツの出迎えをしなきゃいけないんだよ・・・」


「先輩、気分良くしてくださいよ・・・」


「あのな、キンシコウ。嫌いな食べ物を出されて気持ちよく喜ぶ奴なんていないだろ。

心の中じゃ、項垂れてんだよ」


「ぐ、愚痴が多いですね・・・」




「あっ、ヒグマさん、キンシコウさん、お久しぶりです」


「うわっ、出たっ!」


背後から語り掛けられ、ヒグマは驚いたリアクションをした。


「お、おい、足音なく後ろからって・・・、お化けかよ!」


「アハハ、すみませんね」


(この人絶対謝る気ないでしょ・・・)

私はその様子を見てそう思った。


「初めまして、京州署の新人の、アードウルフです。

まだ配属されて半年しか経ってないですけど・・・」


「ゴホン、中央署捜査一課のヒグマだ...」


「同じく、キンシコウです。よろしく」


キンシコウさんは感じの良い感じだけど、

ヒグマさんはなんというか...、古臭い感じの刑事って感じだ。


「取りあえず、中央署に行きましょうか」


キンシコウが先導し、車へと向かった。



車中にて私はふと気になった事を尋ねた。


「先輩、あの二人と、どういう関係なんですか?」


「ずっと昔の同僚だよ」


「捜査一課だったんですか?」


「ちょっとだけね...。まあ、すぐに別の部署に回されちゃったけど」


(別の部署・・・。かばん先輩って過去に何があったんだろう?)


そんな疑問を抱き、中央署へ向かった。






≪中央署≫


全国警察の本部。中央署。

ここに配属される職員は全てエリート揃いだ。


天に届くんじゃないかと思うほど高い建物で、

アードウルフはその立派さに息を飲んだ。


(かばん先輩は、なんでこんな立派な所から、京州に飛ばされたんだろう...)


事件とは関係のない疑問が脳裏でずっとグルグル回り続けていた。


私達は捜査会議に呼ばれた。

京州とは違い、会議室もバカに広い。


サイバー対策課と捜査一課の合同捜査だった。


どうやら話によると、コチラは、先日あったネットバンクの

ハッキング強奪事件の捜査を行っていた。


「今回のハッキングのウィルスを作成したのが、京州で殺された

ニホンオオカミなんだね」


隣に座ってたかばん先輩はそう呟いた。


「動機的には、犯人はそのウィルス感染者とか・・・?

自分があたかもやったかの様に濡れ衣を着せられたからその腹いせで?」


「勘が鋭くなってるね。その可能性もありうる」


そう先輩に言われた。


かばん先輩が言った通り、そのことがこの会議でも話された。


ニホンオオカミの所有していたPCを解析した結果、ウィルスの元ファイルが

見つかったと。


今後はこのウィルスに感染した者を被疑者として、聴取等を行う。

そういう一言で会議は締めくくられた。


≪サイバー対策課≫


ハイテクな機器が揃っているこの部屋は、サイバー対策課

何人もの署員が、パソコンへ向かっている。

かばん先輩はそこへ行きある人物に挨拶した。


「お久しぶりです、ツチノコさん」


「まさかまた会う事になるなんてな・・・」


彼女はツチノコさん。サイバー対策課の課長をしている。


「僕の部下のアードウルフです」


「あっ、どうも...」


私は頭を下げた。

何故かツチノコは重い息を吐いた。


「どうも...。んで、かばん、何が知りたいんだ?捜査資料は貰ったんだろ?」


「被害者のパソコンの内容諸々です。

残念ながら僕達京州組の捜査資料には、そんなに多くの事が描かれてないんですよ」


確かに、かばんさんの言った通り私達に配られた資料は

他の人と比べて随分薄っぺらいような。


「わーったよ...、だが、いま京州から送られたパソコンの解析と

ウィルス感染者を特定している最中だ。暫く時間が掛かりそうだ」


「そうですか。じゃあ、僕は捜査一課の方でもお邪魔して、時間でも潰します。

ヒグマさん達も、僕にあえて嬉しそうでしたし」


(いや・・・、なんか・・・、違うだろ・・・)


「アドさんも自由に回ってきたらどうですか?

大体僕の名前を出せば、どんな部屋でも入れますから。

こんな大きな所、中々来れませんよ?」


「あぁ...、はぁ...」


あの人はこの中央署で何をやらかしたんだろう。

そう思ってしまった。


先輩に言われた通り、私は行く当ても無く、

適当に署内を歩いた。迷子になりそうな程、広かった。

時間は11半過ぎ。


(先に食事でもしようかな・・・)


そんな事を考えながら、歩いていると...



ドンッ



「あっ、ごめんなさい!」


「あぁ、すみません...」


誰かとぶつかってしまった。

相手も何か考え事をしていたようだ。


書類を拾い、相手に渡した。


「・・・ありがとうございます」


「いや、ほんと、失礼しました...」


「・・・あれ、あなた、京州署の方ですか?」


「はい?えっと...、まあ、そうですけど...」


「今時間、有りますか?」


「ええ、はい・・・」


私はその人物に何故か食事に誘われた。



≪中央署 食堂≫


「お、奢って貰っちゃて・・・、ほ、本当に、い、いいんですか?」


「来客をもてなすのは、常識ですから」


(何なんだ、この人は・・・)


「申し遅れましたね。私は捜査二課警部のワシミミズクです」


「アードウルフです・・・。

ワシミミズクさんはかばん先輩と何かあったんですか?」


ワシミミズクは水を一杯飲んでから答えた。


「昔の相棒です。かばん特指課時代最後の時期に一緒に捜査してました。

特指課“三人目の相棒”なんて一部の人から言われてますが」


「と、とくしか?」


「特別指令課、総監直轄の課で、総監が出した指示に従う・・・、そんなところです

一緒に来ますか?」


「えっ?」




私が中央署で出会ったのはワシミミズクという、

かつてのかばん先輩の“相棒”と名乗る人物だった。


かばん先輩の過去がわかるかもしれない。

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