最終電車(パート4)

あの後家に帰り色々考えたが、

慎重に精査しても、残る選択肢はフェネック先輩しかいない。

拳銃だって警官だから使うのには慣れてるはずだ。


もう、こうなったら、最後の手段に行くしかない。


フェネック先輩の家に行く。


それで...、真実を確かめるんだ。


翌日、京州署に行くとフェネック先輩は

出勤していない。


「サーバル先輩、フェネック先輩は?」


「今日は見てないねー」


「あっ、そう言えば前に長期休暇を取るって言ってたな」


カラカルが見上げてそう言った。


「長期休暇...」


私は、不穏な物を感じた。


「フェネック先輩の家って何処ですか?」


「それなら知ってるよ」


カラカルはメモ帳にメモを書き私に渡した。


「課長とは結構長い付き合いだからね。

けど、どうしてこのタイミングで

長期休暇なんか取るんだろうな?

あの人あまり休まないのに。具合でも悪いんかな?」


「私が帰り寄って様子を見てきます」


「なら、私達も行こうか?」


「あっ、いえ...、あんまり大勢で押し掛けても悪いですし、取り敢えず私が見に行きます」


そう言い、私は仕事が終わったあと、教えて貰った住所に車で向かった。


フェネック先輩の家は大きな一軒家だった。カラカル曰く実家からは離れ、一人暮らしで生活しているらしいが、それでこんな立派な家に住んでいるというのは不釣り合いな気がした。

駐車場も車を2台も止められる。

中古の家を買ったのだろうか。


その左に止めてあった車のサイドミラーを確認した。


(擦り傷...)


何かに擦ったような跡があった。


まさか、本当にという気持ちと

心の底から不安感が湧き上がった。


玄関に行きインターホンを押した。

しかし、応答はない。部屋も暗い。


自身の中の訳の分からぬ焦りが大きくなっていった。


ドアに手を掛けると、開いた。


暗い部屋を慎重に歩いた。

不気味な静けさが、私の鼓動を早くさせた。


リビングの部屋はカーテンが閉められ真っ暗になっていた。


壁にある、電気のスイッチを押すと、

暗闇から私の目に飛び込んだのは衝撃的な光景だった。


思わず言葉を失った。


「せ...、先輩...」



先輩は首を吊って死んでいた。



どうしたら良いかわからない私が

辺りを見回すと右側にあったテーブルの上にビデオカメラが設置してあった。

付箋のような物も貼ってある。


そのビデオカメラは、先輩の所を映し出していた。

私はそのテーブルの前に行き、メモを読んだ。


“録画停止ボタンを押し、再生すること”


私はその通りに、カメラの録画停止ボタンを押し、保存されたファイルを再生した。


映し出されたのはまだ“生きている時”の

フェネック先輩だった。

先輩はいつもの微妙な笑いを浮かべ、話し始めた。


「アードウルフ、こんな姿を見せてごめんね」


私は驚いた。

先輩は私が来るという事を想定していた。


息を飲んで続きを待った。


「アードがアライさんの話をした時に

これは目を付けられてるって思ったのさ。君の思っている通り、カワラバトを殺したのはこの私だよ」


淡々とした抑揚のない喋りだった。


「あの車掌が、非常ブレーキを掛ければアライさんは助かったんだ。けど、アイツは掛けなかった。アイツは裁判で無罪になった。アイツはもう法律で裁けないから、私が代わりに制裁を下したんだ」


1度、咳払いをした。


「私は、アイツを京州の日の出海岸まで誘い出した。誰も居ない川がある遊歩道でアイツを殺した。使った銃はそのまま川に捨てた。その後、車に運んで、

山へ向かった。殺害場所を偽装するためにもう一度予備の銃で撃った。

それは、山道の途中で捨てたからね」


大きく息を吸った。そして、吐いた。


「今、水湖署も京州も、私の工作のせいで犯人がわからない。この事件はどう足掻いても、迷宮入りするよ。

ただ、アードウルフ。君が賢くなってるとは、予想外だった。やっぱり、かばんの教育は凄いね」


「...私が自殺する理由はね、2つあるんだ。一つは、部下に逮捕はされたくないんだ。プライドっていうものがあるしね。もう一つはアライさんに会うためだよ」


(アライさん...)


「私、あの子と約束したんだ。

夏休み、いっぱい遊んで、思い出を沢山作ろうって…。

あの事故が無ければ、私はアライさんと海で遊んだり、花火を見たり、縁日で...美味しい物を食べたり...」


薄らと目に涙を浮かべた。


「でも、それが出来なかった。

あの事故のせいで...」


その声は震えていた。


「だから、私は、アライさんと一緒に過ごせなかった夏休みを過ごすだけだから!心配しないで!」


無理矢理に自身を明るくしようとしていた。


「この事件は前々から練っていたんだ。

全ては、アライさんに会うために。

もしかしたら、お前は間違ってるって

批判を受けるかもしれない。だけど、

私はあくまでも、信念を貫き通したんだよ。それをわかってほしい」


溜息を付いた。


「アードウルフ、一つ、頼みがあるんだ...、私のお願い聞いてくれるかな」


私は黙ってその“お願い”を聞いた。















京州署の屋上で風を浴び、山の方に向かって沈む夕日を私は眺めていた。


あの、カワラバトの事件から事件から1年が経った。

未だ事件は未解決。

フェネック先輩は今、行方不明の扱いになっている。これも、本人が望んだことだ。


ガチャ...


ドアの音で後ろを振り向くと、かばん先輩が入ってきた。フェネック先輩の後を継ぎ、警部で課長になった。


「綺麗な夕日ですね。アドさん」


先輩は笑いながらそう言って近付いた。


「先輩...」


先輩は私の横に立った。


「アドさん」


「何ですか?」


カチャッ


右手を取られたと思ったら、

私の手に手錠がかけられていた。


「先輩、これなんの冗談ですか。

手錠は玩具じゃないですよ」


笑いながらそう言った。


「うん、わかってるよ。

でも、アドさん、これは“遊び”じゃないんだ」


「えっ?」


「フェネックさんの死体遺棄」


息を吐くように言った。


「アドさん、この際だから、僕の好きな物を教えますね。僕は一般人が犯罪者になる瞬間が、一番大好きなんです」


笑顔を浮かべた。

私も思わず微笑した。


「何故私が先輩を埋めたって思ったんですか?」


「アドさん、最近同じ山に登ったり降りたりしてるじゃないですか。

ただの登山好きだったら、同じ山を何回も登りません。だから、気になってアドさんが登ってた山を調べました。

そしたら、出てきたんですよね」


相変わらず笑顔は崩さなかった。

先輩は今、とても嬉しいのだろう。


「...やっぱり、京州署は普通じゃないですね」


「そう。そういう“ジンクス”があるから」


また、先輩は笑った。


私は、“責任”を果たせたのだろうか?


よくわからない。


けど、私も“普通じゃない”一人になったのは間違いない。


中央署に行ってれば、なんて思った所でなにも変わらない。


ただただ、現実を受け入れるしかない。


フェネック先輩の“願い”を叶えられて

良かった。それは紛れもない、本当の気持ちだった。

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京州署刑事課は普通じゃない みずかん @Yanato383

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