定められた死と、生きるということ。

 皇帝になれなかった王子は死ななければならない。

 生まれながらにそんな運命を定められた王子バヤズィット。
 最後に残った一歳上の兄の取り巻きにより、望まぬままに反旗を翻した形になり、国を追われ、敵国の王の下に保護される。

 多額の身代金と引き換えに優雅な軟禁生活を送りながら、その王と過ごすうちに、死ぬことなどなんとも思っていなかったはずの彼に変化が起きていく……。


 定められた死の運命に、面と向かっては逆らわず、

 俺の死は悲劇なのだが、俺はそれを笑う。
 俺は凡愚だが、やっぱり特別な凡愚なのだ。
 それは譲れない。

 と、その死と向き合っているようで向き合っていない彼に、特別な死などない、むしろ地震で死んだ平民だって非業の死だと突きつけながらも、優しく見守ってくれる王との対話で物語が進んでいきます。

 非常に重いテーマなのに、基本的には軽妙なバヤズィットの語り口調のおかげで暗くなり過ぎず、というかむしろところにより爆笑してしまうのに、それでも彼が本当に「生きたい」と気づいた時の叫びなどは本当に胸を打たれました。

 いつ死んでもいい、というのは生きるということについてわかっていない、という彼の言葉がぐっさり突き刺さります。

 運命に抗わず、それを受け入れながらも変わっていく彼と、それを見守る王のなんとも美しくも切ない最後のシーン。
 穏やかなのに、どこかぴんと張り詰めた糸のような、そんな印象を受ける素晴らしい作品。凄いものを読んでしまったなあと思いました。

 おすすめです!!

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