魁国に古くから伝わる法により、姉を奪われた主人公・翠薇(すいび)。後に姉の忘形見である甥の命までをも奪われ、ついに魁国に復讐を誓う。
そうして彼女は知恵と美貌を駆使し、姉たちを陥れた者たちすべてに仇為していく——というのが本作のあらすじ。
復讐ものと言うと、仇を為すまでじりじり進むイメージですが、こちらは序盤からどんどん復讐が進みます。
翠薇がとにかくキレ者で、先の先まで読んだうえで、流れるように策を講じていくわけです。その手腕のなんと美しく恐ろしいことか。
そしてそんな息もつかせぬ展開が最後までずーっと続きます。最後までです。先が気になって読む手がマジで止まりません!
彼女のもうひとつの武器である美貌と、本心を悟らせないミステリアスさによって、魅了される或いは翻弄される男たちの存在も、本作のキーポイント。
彼女の真の望みとは、望みは叶うのか、人生を狂わされた男の結末は?
彼女たちの物語の結末を、ぜひご自身の目で確かめてみてください!
『外戚の禍を避けるために、皇太子の生母は必ず死を賜る』
非道な法によって愛する姉を失い、さらに謀略によってその忘れ形見の甥をも失い、復讐を決意した翠薇。彼女は皇帝を籠絡し、後宮を牛耳る太后に取り入り、新入りの官吏を手駒にした上で、自らの身を囮にしてまでも政敵を陥れ、次々と廃していく。
これだけ聞くとなんという稀代の悪女か、と思ってしまうし、実際その通りなのですが、この物語の不思議なところは、読者として、それでも翠薇をどうしても憎みきれないのです。
そもそも非道なのは皇太子の母を殺すという法。そしてそれらに唯々諾々と従ってきた権力者たちであり、官吏たちでもあり。とはいえ翠薇の行為は決して褒められたものではなく非道には変わりはない。なのに、彼女が憎み排斥すべき相手も彼女を憎むどころか愛し、心許してしまうのです。
時折見える彼女の奥底の傷ついた心と、悲しみと怒りに満ちた本音。そして、きっと彼女自身も自覚しきれていないほの見える慈愛に満ちた仕草。全てが偽りだと、演技によって騙されたと言ってしまえるほど単純なものではないのではないか、そんなふうに感じる人々の絡まる心の機微がこの物語をより魅力的なものにしています。
いよいよ彼女の「本音」が明らかになったクライマックス、いったいこの物語がどう終わりを迎えるのか、本当に目が離せません。幸せになってほしいけど……!?
後宮なのだから溺愛ハッピーエンドを目指すのかと思いきや、こちらはそういう物語ではありません。
後宮のはした女だった娘が、理不尽な法により姉を失ったこと、そして姉の忘れ形見までをも奪われたことから考えたこととは――?
少し間違えれば命をなくす、ぎりぎりのところで知恵をしぼり、立ち回る。
そうして目指すのは法を変え、国を手中にすること!
なんとも気宇壮大な、ひとりの女性の物語です。それが美しい描写とわかりやすい文章でつづられていき、息を飲みつつ読み進めました。
寵愛を一身にする美姫ゆえに、はたからは手練手管を弄するように思えます。でも心底にあるのは哀しみと怒りなのです。
芯の強い女の生きざまが、どう国を揺るがし変えていくのか。
まだ連載の途中ではありますが、読みごたえのある物語です。
このレビューは九話掲載時に記載しています。
魁国は、皇太子の生母に死を与える。それは国を保つ祖法である。
この作品の主人公翠薇は、姉を非情な祖法、甥を非道な暗殺で失う。
翠薇の悲しみ憤りはいかばかりか。作品にも現れるそれは、悲嘆と絶望を憤怒と変え、復讐を誓うまでに至る。
俠気満ちた男であれば、剣を持ち皇帝を太后を皇后たちを直接殺し尽くしたかもしれない。
しかし翠薇はそのような道を選ばない。
彼女は媚態を作り、慎ましさを見せ、しとやかな姿で従順な所作をする。
その言葉は薄氷を滑るような危うさの中で用心深く言葉を紡ぎ――相手に決めさせていく。
翠薇の思惑知らず、侮り己で先々を決めているつもりの皇帝たちは、おのずから破滅の沼に少しずつ進んでいくのであろう。
姉と甥の死はただ肉体の死というだけでない。彼女ら名誉、生きる意味、存在を奪われ否定された。翠薇は愛した家族をまだ弔えない。
そのためにも祖法を超えた存在となる。生母として死ぬことなく、おのが子を皇帝へと据える。
その雪辱がはらせるかは今後の展開に期待するのみである。
ぜひ、翠薇の、魁国――いや、世界そのものへの艷やかな復讐譚を見守ってほしい。