つらい、切ない、の方向性で心が掴まれました。創作歴史小説って感じです。

架空の国の歴史上の出来事を小説にした創作歴史小説って感じです。
終章の最終話に后伝があり、「なるほど」と。作中に出てくる乳歯が後世で歴史的な物として語られるのが感慨深いです。
 
魁という国が亡ぶのですが、赫太子が国号を改めるという落とし方がいいなと思いました。国も民も関係ない、滅んで終わりって終わるより、赫太子という存在で読み手に希望とかを感じさせるような、光を最後に見せて締めくくってくれたのがよかったなと。
 
キャラクターとしては、主役の翠薇は洸廉や(たぶん)読者に「悪女の道に突き進むんじゃなくて日の当たる道に戻ってくれ」みたいに願われつつ「国を滅ぼす!」ってなっちゃうのですが(洸廉への共感が強かったかもしれません)
翠薇の精神性を考えたときに「その時代に生まれてこんな環境で育って、知識レベルはたぶんこれくらいで、こんな事件があってこんな立場になって」と考えたときに「感性や思考がそうなっても仕方ないのかな」と思えるような。憧れとか理想とかじゃなくて、ある意味で等身大のひとりの女性。
そんな地に足をつけた生々しさのある人物でした。それもあり、翠薇という主人公は「創作物の主人公キャラ」というよりは「歴史上の人物、実際に生きて死んだ人間」という印象です。

孫太后との関係が良かったなと思います。どろどろした宮中劇って雰囲気があり。「孫太后が翠薇と協力関係になったと思って妊娠中の翠薇に子流しを贈る→同じく妊娠中の皇后が贈り物を盗む→皇后の子が流れる→皇帝・絳凱に孫太后が子流しを贈ったと気付かれて孫太后軟禁へ」みたいな、綺麗に嵌めるなあ~ってなる謀略は読んでいて楽しいな、と思いました。ずっと立ち回りがうまい。
後宮物といえば女性同士の関係。憎み合ったり、親近感や仲間意識を抱いたり。孫太后はすごくおいしいキャラだったなと思います。繊細な心情があって、同情みたいな感情を覚えたりもする。ああ、そういう感情ね、わかる。ってなる。で、「ねたましいんでしょう」と翠薇に言われて刺さるんだけど、そこでなんとなく読者の私も一緒になって傷つくというか、ショックを受けちゃう。記号的な対立ではなくて、ここもやっぱりリアルな女性が共感できるような情念を描かれていらっしゃるので、深みがあっていいなと思いました。
楽しいとか面白いとかではなく、つらいなとか、切ないなとか、そんな方向性で心が掴まれました。

絳凱というキャラもやっぱりしんどい人で、生い立ちと環境を考えると納得しちゃう。好感度はとても高いのですが、主人公の演技に気付かないところが残念でもあり(そこで気づける人物だったら色々変わったのかなあと思ったりする)。
溺愛という言葉が人気ですが、溺愛してますよね。溺れてる。愚かだなとも思えて、でも好きだな、と思ってしまう。で、切ない。最期のところは皇帝としてはダメだなと思うのですが、エモいし、ピュアで「いいな」と思っちゃいました。感動って言葉を使うような局面ではないかなと思うのですが、翠薇とのエンディングがとても心に響きまして、印象的でした。たぶん何年経っても覚えているカップルじゃないかなと思います。カップルっていうと軽いですけど笑

あとは、洸廉も美味しいキャラでした。微妙な立ち位置で、ずっと一方通行な当て馬的な切なさもあり。
赫太子と一緒に未来に歴史を繋いでいくような役どころで、とてもいいなと思いました。
   
しっかりと練られて丁寧に綴られた作品で、ウェブのライトなエンタメ作品というよりは、だいぶ文芸寄りかなと。読み手を選ぶのではないかな、と思いました。
大河ドラマや海外ドラマとかを見ているような層にとても好かれると思います。「この人物たち、この国はどうなっていくのだろう」と追いかけることができました。
明るい暗いでいえば暗い作品になります。暗い作品は暗さに魅力がなくちゃいけないと聞きますが、こういう作品をめちゃくちゃ好物にしている層は確実にいると思いまして、その方々には「これだよこれ!」と言われるのではないかなと思いました。

と、長くなりましたが、私個人の好みとしては、良い作品だなと思いました。好きです。
(あれこれ書きましたが、偉そうに感じられたらすみません!)

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