華やかで繊細な女のオフェンス
- ★★★ Excellent!!!
このレビューは九話掲載時に記載しています。
魁国は、皇太子の生母に死を与える。それは国を保つ祖法である。
この作品の主人公翠薇は、姉を非情な祖法、甥を非道な暗殺で失う。
翠薇の悲しみ憤りはいかばかりか。作品にも現れるそれは、悲嘆と絶望を憤怒と変え、復讐を誓うまでに至る。
俠気満ちた男であれば、剣を持ち皇帝を太后を皇后たちを直接殺し尽くしたかもしれない。
しかし翠薇はそのような道を選ばない。
彼女は媚態を作り、慎ましさを見せ、しとやかな姿で従順な所作をする。
その言葉は薄氷を滑るような危うさの中で用心深く言葉を紡ぎ――相手に決めさせていく。
翠薇の思惑知らず、侮り己で先々を決めているつもりの皇帝たちは、おのずから破滅の沼に少しずつ進んでいくのであろう。
姉と甥の死はただ肉体の死というだけでない。彼女ら名誉、生きる意味、存在を奪われ否定された。翠薇は愛した家族をまだ弔えない。
そのためにも祖法を超えた存在となる。生母として死ぬことなく、おのが子を皇帝へと据える。
その雪辱がはらせるかは今後の展開に期待するのみである。
ぜひ、翠薇の、魁国――いや、世界そのものへの艷やかな復讐譚を見守ってほしい。