華やかで繊細な女のオフェンス

 このレビューは九話掲載時に記載しています。

 魁国は、皇太子の生母に死を与える。それは国を保つ祖法である。

 この作品の主人公翠薇は、姉を非情な祖法、甥を非道な暗殺で失う。

 翠薇の悲しみ憤りはいかばかりか。作品にも現れるそれは、悲嘆と絶望を憤怒と変え、復讐を誓うまでに至る。

 俠気満ちた男であれば、剣を持ち皇帝を太后を皇后たちを直接殺し尽くしたかもしれない。

 しかし翠薇はそのような道を選ばない。

 彼女は媚態を作り、慎ましさを見せ、しとやかな姿で従順な所作をする。

 その言葉は薄氷を滑るような危うさの中で用心深く言葉を紡ぎ――相手に決めさせていく。

 翠薇の思惑知らず、侮り己で先々を決めているつもりの皇帝たちは、おのずから破滅の沼に少しずつ進んでいくのであろう。

 姉と甥の死はただ肉体の死というだけでない。彼女ら名誉、生きる意味、存在を奪われ否定された。翠薇は愛した家族をまだ弔えない。

 そのためにも祖法を超えた存在となる。生母として死ぬことなく、おのが子を皇帝へと据える。

 その雪辱がはらせるかは今後の展開に期待するのみである。

 ぜひ、翠薇の、魁国――いや、世界そのものへの艷やかな復讐譚を見守ってほしい。

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