才色兼備、知略謀略を尽くす美女の圧倒的復讐譚……だけでは終わらない!?

『外戚の禍を避けるために、皇太子の生母は必ず死を賜る』

 非道な法によって愛する姉を失い、さらに謀略によってその忘れ形見の甥をも失い、復讐を決意した翠薇。彼女は皇帝を籠絡し、後宮を牛耳る太后に取り入り、新入りの官吏を手駒にした上で、自らの身を囮にしてまでも政敵を陥れ、次々と廃していく。

 これだけ聞くとなんという稀代の悪女か、と思ってしまうし、実際その通りなのですが、この物語の不思議なところは、読者として、それでも翠薇をどうしても憎みきれないのです。

 そもそも非道なのは皇太子の母を殺すという法。そしてそれらに唯々諾々と従ってきた権力者たちであり、官吏たちでもあり。とはいえ翠薇の行為は決して褒められたものではなく非道には変わりはない。なのに、彼女が憎み排斥すべき相手も彼女を憎むどころか愛し、心許してしまうのです。

 時折見える彼女の奥底の傷ついた心と、悲しみと怒りに満ちた本音。そして、きっと彼女自身も自覚しきれていないほの見える慈愛に満ちた仕草。全てが偽りだと、演技によって騙されたと言ってしまえるほど単純なものではないのではないか、そんなふうに感じる人々の絡まる心の機微がこの物語をより魅力的なものにしています。

 いよいよ彼女の「本音」が明らかになったクライマックス、いったいこの物語がどう終わりを迎えるのか、本当に目が離せません。幸せになってほしいけど……!?

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