旧家のお嬢様、翠子さんは指先が徐々にほどけてしまうという呪いをなんとかするため、国直轄の特務機関、対怪異浄化情報収集室で働くことに。
現代ファンタジー、怪異、お仕事もの好きであれば上記のあらすじだけで興味引かれると思います。私も好きなやつだ~ってテンションあがりました。
この作品の特徴は一人称であることだと思います。
主人公でありメインの視点主である翠子さんはお嬢様。そのお人柄がよく表れた一人称視点は丁寧で、穏やか。
各章のタイトルには「脱皮する人間」「電脳を駆ける少女」「人に寄生する植物」などなど、名前だけでもインパクトがある怪異が並んでいますが、翠子さんの描写がやわらかなので恐怖やおどろおどろしさはありません。
それに加えてキャラクターの役割分担が素敵です。
新人であり知識はないけれど潜在能力に優れた翠子さん。
今までも様々な怪異を浄化してきた先輩で、翠子さんよりも知識があり、翠子さん同様に怪異をみることが出来る颯くん。
怪異は全く見ることが出来ないけれど、知識量が素晴らしい勧修寺先生。
新人と先輩の違い、見える人と見えない人の違い、知識がある人とない人の違いなど、三人の役割分担によって違いが明確にされており、怪異の説明や事件解決までの展開がストレスなく頭に入ってきます。
それに加えて、少しずつ開かされるそれぞれの過去。
私は口が悪くて素直じゃないキャラクター大好きなので、初登場から颯くんのことは好きだったのですが、彼の内心を知った時もっと好きになりました。
いつも元気な勧修寺先生のお話もキャラクターに深みを与えていて、知れば知るほどキャラクターの事が好きになる作品だと感じました。
指が何度ほどけても、颯くんなら何度でも編み直してくれるんだなと思うととてもほっこりした気持ちになります。ご祝儀はどこに送ればいいのでしょうか()
怪異もの好きなのにホラー描写が苦手という私みたいな人間には大変有り難い作品です。興味あるけどホラー苦手って方も安心して読めますので、気になった方は是非読んでみてください。
国直轄の特務機関「対怪異浄化情報収集室」。ひょんなことから、その組織で働くことになった梅小路翠子さんを中心に、ぶっきらぼうな先輩上司の烏丸颯君、「見えない側」の人であるにも関わらず「怪異」大好物な勧修寺先生、魅力ある個性的な面々がその能力を駆使して怪異を祓う冒険活劇……的な物語ではありません。彼ら一人一人の内面や巻き起こる怪異が、やわらかな語り口で繊細に丁寧に描写されるので、奇妙な現実感を伴って読み手に迫ってきます。「脱皮する人間(!)」「ひとに寄生する植物」など、どのエピソードもタイトルだけ見れば、おどろおどろしい印象を受けますが、どちらかといえば硬質で乾いた筆致が、不思議な空気感を立ち上げて、奇妙な味わいの幻想譚に仕上がっています。その文章を噛み締めるように、物語を味わってください。
ある日、自分の小指がほどけてしまった――。
そんな不可解な現象が起きた翠子さんのもとに、ある日特別なものしか入れない『対怪異浄化情報収集室』の職員がやってきました。
「これはあなたじゃなくて、あなたの家にかけられた呪いだ」
「糸になるのだったら、縫い合わせるか、あるいは編み込むのが良さそうだねぇ」
その呪いのため、少々、いえかなり特殊な機関で働くことが決まった良家の子女翠子さんですが、彼女はとても前向きでした。
「信じたいんです。自分の力で出来ることを」
彼女の職場は個性あふれる人達ばかり。
呪いの干渉を受けやすく、記憶などを読み取ることが出来る梅小路翠子さん。
口調は荒いけど、翠子さんのほどける小指を編んでくれる烏丸颯くん。
心霊現象に興味津々、そんな仕事を生業にしているのに、怪異の類が一切見えない勧修寺双樹先生。
視える力と賭け事と度胸がすごい、サバサバした胡桃沢巴さん。
人を呪うもの。悲しみを抱くもの。
事件を起こす呪物を浄化するため、それぞれ悩みや願いを秘めながら。
「浄化室」は今日も行く!
作者さまの趣味てんこ盛りで書かれたというこの作品。見事そのアンテナに引っかかり、私の「好き!」もぎっしり詰め込まれておりました。とても楽しい!
呪や怨念がこもってしまった怪異を浄化、祓うことを生業とする人たちが集まる『浄化室』を舞台とした現代ファンタジー。主人公翠子さんの落ち着いた語り口を中心に、他視点を交えながらの展開もスピーディーで、心地よい筆致の作品です。
翠子さんの「指がほどけていく」という、衝撃的な出来事から物語は始まります。「指が、ほどける?え、大丈夫?」ってなるんですが、はい大丈夫です(ひとまずは)。ちゃんとほどけた指を編んでくれる人がいるんですね。それが年下上司の颯くん!
キャッチコピーにある『不器用な恋』のお相手というかご本人というかの颯くん、私はこの人がツボすぎて大好きになってしまいまして。たまに残したコメントはほぼ彼のことを叫んでいるだけだった。作者さま本当にすみません。反省。
浄化室の仲間たちと一緒に怪異の祓い・浄化へ立ち向かう翠子さん。一生懸命で、だけど悩みや葛藤も抱え少し危なっかしさもありながらも成長していく姿を見せてくれ、お仕事小説としても楽しめるのではないかと思います。
完結ではあるものの、ほどけてしまう指先の呪いや、ふたりの恋の行方、個性的な浄化室の面々には掘り下げエピソードなどもありそう(たぶん?)。続編を期待してしまう面白さです!