第12話 想定外の出会い
俺たちは早速依頼があった教会へと向かう。当然の如く街の人々からは怯えられていたが。
「着いたぞ。ここが依頼のあった教会だな。」
なかなか大きい教会だと思うが、正面から見ても分かるくらいに老朽化していた。
「おーい、あんたらが依頼受けてくれた冒険者だろー?早速、こっち来て手伝ってくれー!」
俺の存在にリアクションはなかった。まじか。まあ、怯えられるよりいいけど。
教会の裏手へと続く道から依頼者っぽいおっさんについて行くと、広場のようになっており、端に材木が積んであった。あれを運ぶのが今回の依頼かな?
ふと、教会とは別に木造平屋の建物が目に入り、そこの窓からシュリアと同年代くらいの子供たちがこちらを見ていることに気がついた。
「アソコハナンダ?」
「ん?ああ、孤児院だな。教会のシスターたちが運営しているところだ。」
「マオウグントノセンソウデ………?」
「……当然、いるだろうな。戦争によって親を失った孤児も多い。勿論、それだけが原因じゃあねぇが、今のご時世大きな割合を占めてんのは確かだ。」
何も知らない俺が軽々しく可哀想だなんて言うのは違うと思うが………それでも、やりきれない気持ちにはなる。
どんな状況だろうと、戦争で一番多く生まれるものは『罪の無い被害者』だ。
「そんじゃ、作業始めっからよろしくな!」
俺の力は大いに役立ったようで、初め大きな材木を一気に何本も運んだら職人の皆さんから拍手を頂いた。ふふん。
ただ、エレナさんが俺に対抗して魔法を使って更に多くの材木を運んでドヤ顔してきたときは、悔しいというよりカワイイと思った。負けたぜ、エレナさん。
「お疲れさん。最初はオーガがいるもんでどうなるかと思ったが、あんたらのお陰で早めに仕上げられたぜ!ありがとよ!」
明らかに日本とは異なる方法であっという間に工事を終えた職人たちは今は広場に座り込んで休憩している。
魔法による建築はハンパないな。一日でビフォーアフターだ。いや、半日か。やばいな、異世界。
「ふっ、私たちにかかれば造作もないことだ。なぁ、そう思うだろう?」
「アア、エレナノマホウハスゴカッタ。」
エレナさんが褒められてドヤ顔かましてたので、俺もヨイショしておく。
俺たちが仕事終わりの歓談をしていると、孤児院の入り口の扉の陰から子供たちがこちらを伺っていることに気づいた。
(ねぇシン、やっぱりやめようよ。おっきいまものなんだよ?)
(だいじょうぶだって!大人はみんなふつーに話してるじゃん!それにオレならオーガにだって勝てるもんね!勇者さまに剣の稽古つけてもらったし。)
(でも、オーガはこどもを食べるのが好きなんだってシスターが言ってたよ?)
(だ、だいじょうぶだよ……。ユーナは下がってろよな。オレが話しかけるんだ……。)
なにやら俺の話をしているのが聞こえてしまった。これは男の子にありがちなやつだな。あのユーナちゃんって子の前でカッコいいところを見せたいのだろう。俺が小さいときはカッコつける相手がいなかったな………。
俺が横目に彼らを観察していると、じりじりと寄って来た。エレナさんも気付いたようだ。不用心な、といいつつも、微笑ましいものを見る表情をしていた。
「お、おい!お前!オーガなのに話せるのか?」
近くまできた二人は少し怯えながらも興味津々といった様子だ。ここは少し………。
「アア、ハナセルゾ。ワタシハ……マオウナノダ。」
(おい!なにを言ってるんだ!?)
エレナさんが小声で問うてきたので、目で合図する、が、首を傾げられた。うん、分かってたよ。まだそこまで親しくないよね、はい。
「「ま、魔王!?」」
二人ともかなりびっくりしている。ふふふ、魔物の俺が直々に魔物の恐さを教えてあげよう。いくら興味があっても、危険なものに迂闊に近づいてはいけないのだ。………自分で言って虚しいな。
「ま、魔王が何をしに来たんだ?」
シンくんのごくり、と唾を飲み込む音が聞こえた。かなり真剣な表情だ。ユーナちゃんはその後ろで彼の服の裾を掴んでいる。
「フフフ、『ユーナ』トイウオヒメサマヲ、サライニキタノダ!」
「ええっ!?わ、わたし!?」
「ユーナを!?だ、駄目だ!ユーナは渡さないぞ!魔王め!お、オレが、相手だ!」
カッコイイぞ、シン少年。それでこそ男の子だ。ちなみにさっきからずっとエレナさんの呆れを多量に含んだ視線が横から突き刺さっているが、問題なくはない。
怯えるユーナちゃんを勇者シンは背中に庇い、恐怖に震える己の身体を叱咤し、魔王ツァールトに立ち向かう。
だがな、少年。正義が必ずしも勝つとは限らないのが世の常なのだよ。
「はぁぁっ!」
飛びかかってきたシンくんの首後ろの襟を掴んで持ち上げる。勇者の拳は、あと一歩のところで魔王に届かなかったのだ……。
「は、はなせぇ!!くそ!」
「シン!魔王さま、わたしはどうなってもいいからシンは助けて!お願い!」
「ユーナ!ダメだ!逃げろ!俺のことはいいから!」
「でもっ!」
………やばい、これから迂闊に近づいてきたことを説教しようとしたのに、言い出せない。
大工のオヤジたちとエレナさんがものすごく冷たい目を向けてくる。どうしましょう?
「まったく……。」
おお!エレナさんが立ち上がってくれた!
子供たちへの説教はエレナさんがしてくれることだろう。
そして、エレナさんが俺たちの側に来た時、悪寒が身体中に伝わった。
俺は瞬時に近くにいた子供たちとエレナさんを抱えて大きく後ろへ跳ぶ。
その直後、俺がいた場所になにかが衝撃を伴って着弾した。
ドゴォォォン!
「うわぁ!」
「きゃ!」
「なんだ!?」
俺はすぐに子供たちを下ろしてエレナさんに預ける。
「ワカラナイ。タダ、オレヘノメイカクナコウゲキダッタ。エレナ、コドモタチヲ。」
「……分かった。気をつけろ。」
何が何だかといった様子の子供たちを連れてエレナさんは離れた。
「ナニモノダ!」
未だ衝撃により土煙りが晴れない中、
「子供たちを解放しろ!オーガめ!」
凛とした女性の声とともに煙を突破して何者かが斬り掛かってきた。
俺は咄嗟に横に跳ぶことで回避する。が、相手はワンステップだけで方向転換を決め再度突撃してきた。およそ人間離れした動きに俺は対応が遅れる。
「ナッ!?」
今度は横に剣を薙ぐようにしてきた。顔と剣の間に両腕を割り込む。次の瞬間、盾にした両腕に痛みが走る。
「ッ!!」
これ以上追撃されぬように大きく後ろに距離を取る。相手も追ってはこないようだ。
危なかった……。完璧に首を狙っていたな。俺の硬い皮膚に感謝しなければ。両腕と首がまとめてバイバイしてもおかしくはなかった。ジルドさん以上の剣の腕なのは素人の俺でも分かった。
両腕からは大量の血が流れている。継戦するには脚をつかうしかないが、言葉を聞く限り、俺のおふざけが原因で勘違いさせてしまったらしいから、厳密には敵ではないのだろう。………いや、俺にとっては未だ敵だが。
自業自得ですね、はい。
「マッテクレ!オレハコドモタチニキガイハクワエテイナイ!フタリトモブジダ!」
「話せることには驚いたが……魔物の言葉が信じられるとでも?」
ですよねー。ごもっともです。
まずいな、非常に。今成長したとしても超えられる力量差ではないな。いったい何者なんだ?孤児院の関係者っぽいが……。
土煙りが徐々に晴れていく。すると、中から歩み出てきたのは十代後半といった感じの長い黒髪の少女であった。
てか日本人だろ、どう見ても。ん?日本人?異世界?まさか………
「あっ!勇者さまだ!」
「ホントだ!」
俺たちが向かい合う横にいたエレナさんに抱き抱えられた子供たちが口々に言う。
やっぱりそうでしたか……俺、死ぬんですかね?シュリア、ごめんよ。きっと君にはもっと良い魔物がいるよ。草葉の陰から見守っています。
魔物転生!〜だけど俺はいいマモノです〜 ちっこま。 @faulheit
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