魔物転生!〜だけど俺はいいマモノです〜

ちっこま。

第1話 プロローグ

午後4時半くらいだろうか。まだまだ夏の暑さが残るなか、俺はいつもの通学路を一人トボトボと歩いて帰路についていた。


「はぁ……今日のはさすがにきついなぁ……。やっぱり体でかいし、顔が怖いのか………。」


俺は普通にクラスメイトに話し掛けているつもりなのだが、いつも避けられる。おそらく自分の風貌が原因だろうとは分かっているが、どうしようもない。おかげさまでいつもぼっちだ……。


まぁ、クラスメイトに怯えられるのは慣れてきていた。だから、今日落ち込んでいるのは他に理由がある。


朝いつも通り、家の周辺を掃除していたら、掃除に熱中してしまい学校に遅れそうになったため、走って学校に向かった。そして、もう遅刻だったので教室に勢いよく入って担任の先生に「遅れてすみません!」といったのだが、いつも俺にも優しく声を掛けてくれる美人の美奈子先生が挙動不審で……「ひっ……い、いえ、大丈夫デスヨ!?朝のホールムーム始めましゅので席に……。」と言っていた。明らかに怯えられていたのだ。てか、先生かわいい。それは置いておいて、とにかく、先生も内心ではいつも俺に怯えていたのかもしれないと思ったら、どうしようもないとは思いつつも、途端に申し訳なくなってしまい、落ち込んでいたのである。


「せめて友人のひとりくらいは作りたいよなぁ…。天国のばあちゃんを安心させてあげたい……。」


俺は幼い頃に両親を事故で亡くしており、それからは母方の祖母に育てられた。


「あんたがどんな顔してても、優しい人間の周りには人が集まるもんだぁ。だから、なぁんも心配するこたぁ、ねぇ。胸張って生きろぉ。」


このばあちゃんの言葉に当時の幼い自分はずっと支えられていたし、今も俺の生き方の指針となっている。最初は周りに良く見られたい一心だったが、ばあちゃんの言う優しさはこんなものではないと思い直し、今は自分なりに優しさを探しているところだと言えるだろう。


だからこそ、早くばあちゃんに心配を掛けないようになりたいのだ。


そんなばあちゃんの言葉を思い出して自分を元気付けていると、ふと、歩道の先を歩いている親子が目に入る。母親は男の子と手を繋いで買い物袋を逆にもっており、男の子のほうはお菓子についていたのか、ボールらしきもので遊んでいた。その光景に、あたたかい心になると同時に羨望の眼差しを向けていた。


(俺も……母親が生きてたらあんなふうに……。)


そんなことを考えていたが、男の子の「あっ!」という声で意識が再び親子に向いた。

すると、さっきまで遊んでいたボールが男の子の手から零れ落ち、跳ねていくのが目に入る。


男の子は母親の手を離し、母親の「まって!まちなさい!」という制止の声も聞かず、跳ねていくボールを追ってそのまま車道に飛び出し……って、おい!


「危ねぇ!くそ!」


先に見える信号は青。いつ車が来てもおかしくはない。俺は咄嗟に男の子を追って飛び出していた。


「間に合うか……っ!?」


ギリギリで男の子の手を掴むことに成功し引き戻すが、無理な体勢で引っ張ったために俺が代わりに車道に飛び出してしまった。そして……


キキィィィイ、バァン!!


途轍もない痛みを感じた次の瞬間には、俺は横たわっていた。意識は朦朧としていたが、かろうじて先程の親子が視界に入る。母親は子どもを抱き抱えながらも、俺のほうを涙目で何か叫びながら見ている。心配してくれているのだろうか……?そして、男の子のほうは、何が起きたのかわかっていないような顔で唯々、俺のことを真っ直ぐに見つめていた。


(無事ならそれで良い……。体張った甲斐があったな……。しかし…意外に俺の体は見掛け倒しだったか………全然動かないな。……………あの子には俺の代わりに……優しい人間になってほしいなぁ………。)


限界を感じ、俺はゆっくりと目を閉じた。




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