第2話 オレハ、マモノカ?
遠退いていく意識。俺は自分の人生に悔いが無いとはとても言えなかったが、これでおしまいだな……。
そんなことを最後に考えていたのだが、徐々に意識が浮上していく。明らかに死ぬ寸前だったのにおかしくないか!?完全に意識がもどり、不思議に思いつつも俺はゆっくりと目を開けた。
すると視界には、湿った土と鬱蒼とした森が広がっていた。キョロキョロとしつつ、体を起こし胡座をかく。
(どこだよ……明らかに病院じゃないしなぁ………。)
ふと、違和感を感じ、俺は事故にあったはずでは?と思い返す。痛みを感じないため視線を自分の体に移してみると………
「ナ、ナンジャコリャー!?」
そこには、人間味を感じさせない程黒く、引き締まった無駄の無い体があった。元々は体は無駄に大きく、こんな細マッチョではなかったし、こんな漆黒の肌ではなかった。さらに、手を見れば爪が異様に長く鋭く伸びている。
(おかしい……明らかに俺、人間辞めてる………ん?)
そしてさらに、俺は自分が今腰巻らしきものしか身につけていない事に気付いた。もちろん、下着など無い!
「ノオォォーー!!」
俺は今、ここが日本ならばポリスメンにお世話になってしまうような格好です。
今更ながら、声が滑らかに出ないことにも気づいた。そして、それも人間のものとはとても思えなかった。しかも、頭を抱えた時にツノのようなものが額の上部から生えていることにも気づいてしまった。
(こ、これはもしかして……斜め前の席の山田くんがよんでいたラノベに出てきた『オーガ』とかいう魔物では!?)
俺は山田くんと友達になろうと思っていつも山田くんが読んでいる本をリサーチして読んだことがある。(結果は、まず山田くんに何故か謝られ続け、ラノベの話題に入ること自体ができなかった。そして、俺の孤立は進んだ……。)そのラノベにはさまざまな種族がファンタジーとして描かれていたのだが、今の俺の体の特徴は魔物のオーガと一致していた。
(オーガになったのか?変異?いや……転生、か?だとしたら、俺は一回死んで異世界に転生したのか!?しかも、魔物に!!?)
いまだ混乱から抜け出せずにいたが、取り敢えず深呼吸をして落ち着こうと試みる。
(ふぅ……。取り敢えずは落ち着いたな。死ぬ間際のリアルな夢の可能性も捨てきれないが、感覚もある、というか、前よりも鋭くなってるから、転生したと仮定して動いたほうがいいな……。ラノベ、ハマって読み続けてたけど、自分が転生モノの主人公ポジションになるとは……。でも、オーガになったってことは、他にも魔物がいるよな?ここも安全とは言えないか……。)
立ち上がって改めて周りを見回すと、自分の身長が人間だったときよりもちょっと高いことに気づいた。ちょっとといっても元々195cmあったので、今は2mくらいだろうか……。
しばらく周辺の状況を把握することに努めていると、川の流れる音が聞こえることに気づく。それと一緒に少女の歌声のようなものも小さく聞こえてきた。
その歌声に誘われるように歩き始めると、川の流れる音も近づく。どうやら、少女らしき声の持ち主は川の近くにいるらしい。何故か距離感が正確にわかるようになっている。これがオーガの身体能力なのだろうか……?
その後、5分ほど歩き続けると川が見えたので、川の向こう岸が見える位置まで静かに移動して茂みに隠れるようにしゃがみ込んで、声の主を探す。歌声はとても透き通りきれいで、少女らしい溌剌としたものだ。しかし、なぜか俺にはどこか寂しそうにも聞こえた。
声に導かれるように探していると、向こう岸に、銀色の風に靡く長い真っ直ぐな髪と、まさにスカイブルーといった色の瞳を持つ7歳から10歳くらいに見える美少女が川に足をつけて歌っているのを見つけ、俺は見惚れていた。
(お、俺はノーマルなはず!あんな小さい子に女性を感じるなんて、き、気のせいだ!)
我に返って頭を横に振る。同時に少女の歌声が止んでいることに気づき、顔を上げて様子を伺うと………少女の、好きなスイーツが目の前に出されたようなキラキラした目とバッチリ目が合ってしまった。
(ま、まずいっ!俺は今オーガだぞ!?ああいや、人間だった頃も泣かれてたけども!いや、それはいま関係ない!ど、どうすればっ!?)
かなりあたふたしてしまったが、その間も少女はこちらを観察していたようだ。
鬼いさん、女の子を泣かせてしまってはいなかったようでひとまず安心ですよ。
じっと10秒くらいだろうか、見つめ合っていたが、不意に少女が口を開く。
「ねぇ、あ「お嬢様!やっと見つけやしたよ!まったく、勝手に街道を離れないでくださいって頼みやしたよね!?あっしがどれだけ心配したと思ってるんですかい!?」
少女の声を遮って、向こうの茂みから腰に西洋風の剣を帯剣して、胸元と肩だけを鉄で覆った鎧を着た20代前半くらいの男が出てきた。少女のことをお嬢様と呼んでいたし、男の言葉の内容からして、貴族だか大手商人だかの令嬢であるあの少女の護衛かなにかだと察せられる。
(まぁ、少女がひとりでこんな森にいる方が不自然か………。てか、街道が通ってるってことは街にもいけるな。……オーガじゃなければな。)
「ところでお嬢様、先ほど、向こう岸に話し掛けやせんでした?なんか可愛い動物でもいたんですかい?」
(やっべぇ!こっち見てるよ!見つかったら、魔物ゼッタイコロスマンになるぞあの兄さん!!)
素早く身をかがめてやり過ごす。護衛の兄さんは「お嬢様も動物に話し掛けたりするんですねぇ。かわいいところもあるじゃないですかい!」などと一方的に楽しそうに話し掛けている。
(そんな話は街道に戻ってからしてくれよ!オーガと遭遇しちゃうんだからな!?てか、少女、護衛の兄さん全く相手にしてないな!ずっと俺の方見てるよ!!やめてぇ!バレるから!そんなキラキラした目で見つめないでぇ!!)
俺は必死に息を殺して耐える。すると
「んじゃあ、お嬢様、そろそろ戻りやしょうぜ。ここらは本当にオーガとか出やすんで。」
その通りです!と心の中で護衛の兄さんに賛同しつつそっと覗き見ると、少女は護衛の兄さんにバレないようにこっそりとこちらに手を振っていた。俺は怖がられないどころか、手を振ってもらえた事が嬉しくて、つい、振り返してしまう。それを見て少女は一瞬、驚いた表情になったかと思ったら、途端に満面の笑みを浮かべて立ち止まる。
しかし、次の瞬間、「お嬢様!下がってくだせぇ!」という護衛の兄さんの声に、俺も少女もそちらを振り返った。
そこには、緑色の肌で角をもつ巨大な魔物『オーガ』がいた。
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