第11話 冒険者ギルド(2)

冒険者ギルドの中はやはり活気に満ちていた。テーブルを囲んで依頼について話し合う冒険者。受付でテキパキと仕事をこなす受付嬢。思い描いた通りの光景がそこには広がっていた。


左側の壁には一面に依頼書らしき紙が張り出されていて、その前ではたくさんの冒険者が考え込んでいる。それを見ただけでもテンションが上がってきた。


「おい、行くぞ?」


おっと、本来の目的を忘れてた。エレナさんの後に続いて受付へと向かう。


「クレア、久し振りだな。早速ですまないが、ギルド長に取り次ぎを頼む。」


知り合いの受付嬢らしいな。黒髪のさらさらストレートロングでかなりの美人さんだ。アメジスト色の目をしている。


黒髪は俺以外にこっちで初めて見た。なんかちょっと嬉しいな。お世話になるときはこの人に頼もう。


「え、エレナ様!?お久しぶりです!お元気でしたか?冒険者としての活動は辞めてしまわれたのかと………。」

「ああ、ほとんど辞めたようなものだ。今はネーヴェルク公爵家に雇われている身だからな。今日はシュリアお嬢様の従魔の件で来た。」

「え?」


初めてクレアさんの目が俺を捉える。そして、大きく見開かれた。


「ひいっ!オ、オーガ!?」


まぁ、既に冒険者たちから注目を集めてはいたが、クレアさんの声でギルド内が静まり返った。みんな警戒してるなぁ。


「安心しろ。こいつはシュリアお嬢様の従魔だといっただろう?契約も済ませてある。」

「で、でも、エレナ様………いえ、エレナさん、その………大丈夫、なんですか………?」


クレアさんはエレナさんを心配そうに見つめる。そうか、エレナさんの過去の仲間っていうのは冒険者の………。


「……………確かに、大丈夫とは言い切れないな。だが、こいつは………いや、なら信じてもいいかと思える。そんなところだ。」


エレナさんは伏し目がちにそう言った。少しは仲良くなれたかもな。


「そう、ですか………。あの、そちらの従魔のお名前は?」


クレアさんがちらちらとこちらを見て怯えつつもエレナさんに問いかけた。


すると、エレナさんがこちらを見るので俺が挨拶をする。


「ツァールトダ。ヨロシクタノム。」

「えっ!?しゃ、喋れるんですか!?」

「信じられないかもしれないが、彼は理性と知性をもつ魔物なんだ。」


しばらくクレアさんはフリーズしていた。乙女が口をポカーンといつまでも開けているのはどうかと思いますよ。戻ってきてー。


「クレア、そろそろギルド長に……。」

「はっ!?し、失礼しました!直ぐにお取り次ぎいたし……」

「呼ばんでいいぞー。ここにいるからな。」


なっ!?いつのまにか俺の隣に大柄な男がいた。全く気が付かなかったぞ………。


四十代前半くらいだろうか?その肉体は服の上からでも分かるほどに筋肉が付いているが、一切の無駄がなさそうだ。


髪は短めの茶色で、後ろに流している。しかも、左目には眼帯をつけていた。歴戦の強者といった風貌だ。只者じゃないな………。


「よぉ、エレナ、久しぶりじゃねぇか。どれ、成長したか見てやろう!」


ギルド長はいきなりエレナさんのヒップに手を伸ばした。


しかし、エレナさんは素早く反応し、そのいやらしい手を捻り上げる。


「いててて!おい!ちったぁ加減しろよな!」

「不埒者に加減する必要はない。自業自得だ。」

「ただのスキンシップじゃねぇかよ〜。」

「何がスキンシップだ!そう言って受付嬢たちにも不埒な行いをしているのだろう!むしろ、もっと仕置きが必要だと思うがな!」


なんだ、ただのセクハラオヤジか………。


エレナさんの怒りの声に、今までこちらを見ていた受付嬢たちが声を上げる。


「そうよー!エレナさん、やっちゃってー!この、変態オヤジー!」

「そのまま腕の一本や二本、折ってやってー!」

「きん○ま、潰しちゃえばいいのよー!」


その瞬間、ギルド内にいた男性が全員青ざめて内股になった。もちろん、俺も含めて。


受付嬢とはこんなにも逞しいものだったのか。ただ一人、クレアさんだけは顔を赤く染めて俯いていたが。うん、やっぱり担当はクレアさんがいいな!


「お前ら!上司に向かってなんてこと言うんだ!血も涙もねぇのかよ!?」


結果、受付嬢たちがギルド長に向かって一斉に首切りモーションを行うという、世にも恐ろしい光景が俺の脳裏に焼き付いた。


………女性はどこの世界でも強いんだな。


「ふん、今日はこのぐらいで勘弁してやる。こちらも用事があってきたのだからな。」


エレナさんはギルド長を突き飛ばしながらそう言った。………怖いってば。さっきまでのかわいいエレナさんはどこへ?


「はぁ〜………ひでぇ奴らだ、全く。それで?用事ってーと、そこの従魔のことだろう?」


ちらりと俺を一瞥したギルド長。警戒三割、興味七割といったところだろうか。まぁ、喋れるオーガだしなぁ。魔物に接する機会の多い冒険者のトップなら興味も湧くか。


「そうだ。ネーヴェルク公爵からの紹介状も預かっている。」


エレナさんが目線で訴えてきたので、俺はローブから紹介状を取り出してギルド長へと渡す。


「ほぉー。なになに?………なるほどな。よし、わかった!俺もアンタに興味があるしな。許可してやるよ、冒険者ギルド史上初の『魔物の冒険者』の誕生を、な?」


ギルド長の発言にギルド内が騒めいた。俺も驚いているけど。まさかこんな即決で認められるとは思わなかった。


「後見人にネーヴェルク公爵とAランク冒険者のエレナ・フィリムが付くんだろう?なら、問題ねぇわな!」


エレナさんはかなり強そうだもんな。Aランクがどれくらいかはわからないが。


「よし、んじゃ〜………クレア!お前がこいつの担当な!登録をやってやれ!」

「えっ!?………わ、わかりました。」


うわぁ、クレアさんすごく嫌そう。ここから仲良くなれるかな……。終始怯えられそうだけど。


「コレカラヨロシクタノム、クレア。」

「!は、はい、こちらこそよろしくお願いします。えっと……ツァールトさん。」


慌てて頭を下げるクレアさん。腰低いなぁ。こんなんで冒険者たちの相手できてんのかな?周りの受付嬢は大丈夫そうだけど。






その後、俺は字がまだ書けないのでエレナさんに登録の諸々を頼み、無事、登録が完了した。


「ではこちらが冒険者であることを証明するカードになります。失くさないようにしてくださいね。」


クレアさんから手渡されたのは銅らしき素材でできたカードだった。そこには色々と文字が彫られている。


「そこにはお名前と冒険者ランクが彫られています。街の出入りの際にはそちらを提示して頂ければ、スムーズに通行できると思います。」

「ナルホド。」

「それと冒険者ランクについてですが、ツァールトさんは最初のEランクとなりますね。そこからD、C、B、A、Sとなるにつれて優秀な冒険者というわけです。Cランクまでは依頼達成数によって昇格しますが、B、Aランクになる為にはこちらが指定する一定以上の難易度の依頼をこなしてもらわなければなりません。」

「Sランクハドウスルンダ?」

「Sランクについては、Aランク冒険者の中から大きな功績を残したものが選ばれます。例えば、魔王軍の将級を倒したり、街ひとつを魔物の大侵攻デスパレードから守り抜いたり、ですね。今は三人のSランク冒険者が活躍しています。」


Sランクは相当な腕利きじゃないとなれないようだ。三人しかいないとは思わなかった。


「ワカッタ。アリガトウ。」

「い、いえ、これから頑張ってください。私がツァールトさんの担当をさせていただきますので、ご用がある際にはこちらに来てください。」


まだ怯え気味だが、真面目に仕事をこなそうとするクレアさん。うーん、気安い仲になるには時間が必要だよな。


「では、早速簡単な依頼を見繕ってくれないか?私も付いて行くことにする。」

「わかりました。では………街中の依頼になりますが、こちらはいかがですか?」


エレナさんに頼まれてクレアさんが提示してきたのは、「教会の改修工事の手伝い」だった。


「ふむ……これなら問題あるまい。お前もこれでいいか?」

「モンダイナイ。」

「では、こちらの依頼の申請をしますね。依頼が完了しましたら現場の担当者から依頼達成証明を受け取ってください。そちらをここで提出していただくと、依頼の完遂となります。初めての依頼、頑張ってくださいね!」


クレアさんの笑顔に見送られ、ワクワクしつつも冒険者ギルドを後にする。


俺の冒険者ライフの始まりだ!


「何をぼーっとしている?早く行くぞ。」

「ハ、ハイ。」


エレナさんに注意されてしまった………。

舞い上がっててすみません。



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