第7話 Dressmaking
しばらくの間、俺はシュリアと2人決起集会をしていたのだが、陽が落ちて差し込んでくるのが月明かりになったころ、シュリアは疲れて眠てしまった。レディの寝顔を見るなんて失礼なことはちょっとしかしてない。うん、10分くらい。
シュリアが眠りについてまもなく、セバスさんが夕食の時間になったと伝えにきてくれたが、俺はシュリアが寝ているので側にいることを言うと、柔らかくシュリアに微笑んでから俺に会釈をして静かに去っていった。
まぁ、今日だけで色々あったもんなぁ。俺もここに生まれた意味を『つくること』ができた。無意味にしないためにも明日はできることから始めよう。
同じベッドに寝るわけにもいかないので、高級そうな絨毯の上に丸まって寝ることにする。おやすみ、シュリア。
「……………て…………きて、……おきて!朝よ、ツァールト!」
俺は天使の声で意識が浮上した。べりーぐっと。心地よい声だなぁ。二度寝できるな。スヤァ…………ぐほぉっ!!
腹から胸にかけて衝撃を感じ、目を開けて見ると、仰向けの俺の上でシュリアがニコニコしながら寝そべっていた。
なにこれ!?ホントに天使はいたんだ!神さま、ありがとう!天使の頬が緩みきっていたので、つい、爪が当たらないように突いてしまった。
「えへへ………ツァールト、おはよう。」
「オハヨウ、シュリア。」
もう朝からお腹いっぱいですわ。あ、でも、朝食は食べたいですね。なんでもいいので。
ゆるゆるの空気の中、ふたりでイチャイチャ(主観)していると、ドアがノックされ、シュリアが返事をするとドアを開けて人が入ってくる。
「おっ、おはようございます!シュリアお嬢様!朝食の準備が整いましたっ!お着替え、お手伝いいたします!」
「ええ、よろしくね!リーナ!」
その人は赤茶色の肩くらいまでの髪でサイドテールにしており、ぱっちりとした快活な印象を受ける黄金色の瞳で、メイド服を着た小柄な少女だった。
おお!メイドさんだ!15、6歳くらいに見えるな。シュリアの専属メイドかな?昨日は見なかったけど。でも、誰かに似ているような………
「あっ!貴方がツァールトさんですねっ!おじいちゃん、あ、えっと、セバスティアン様から伺ってます!私はリーナと申します!シュリアお嬢様の専属メイドですっ!!よろしくお願いしますっ!!!」
そうだ!セバスさんだ!孫がいたんだ………。それにしても、リーナちゃんはものすごく元気だな。『ピカー!』っていうより、『ぺっかぁーーー!!!』って感じの元気さだ。そんで、そそっかしいんだろうなぁ、きっと。
「ヨロシク、リーナ。」
この子も俺のこと、怖がってないな。昨日の街中ではみんな恐怖があったけど、この屋敷の人たちが特別か?
「はいっ!では、お嬢様のお着替えをするので……その………ツァールトさんは………。」
「!ワカッタ。ロウカデマトウ。」
危ない危ない、つい普通に居ようとしてしまった。シュリアに嫌われたくないからな。
「ツァールトは居ていいの!わたしの従魔なんだからっ!」
なっ!なんだと!?シュリア、そ、それは本当か………いやいや!ダメダメ!淑女がそんなこと!リーナちゃんも困った顔してるし!
「シュリア、レディハキガエヲ、オトコニミセチャダメダ。オレハ、ロウカデマッテルヨ。」
そう言うと、シュリアはワンピースの裾ぎゅっと掴んで、
「………ツァールトは側に居てくれるって言ったもん!」
そんなこと言われたら居たくなっちゃうじゃないかぁ!
なんとかシュリアを引き離すことには成功した。しかし、着替えが終わったあと、食堂にいって食事をしているときも、俺の膝の上から降りようとはしなかった。そのせいで、グランバルドさんは視線だけで俺を殺そうとしていた。
「………ツァールト君、君の格好だがそのままという訳にもいかないんだ。一応、公爵という立場があるからね。シュリアの従魔が腰巻だけで出歩くというのは………わかってくれるかい?」
朝食のあと、グランバルドさんが退席する前にそう言ってきた。確かにこのままというのは不味いだろう。俺はオーガとして生まれたせいか、羞恥心は弱いらしい。心まで魔物になったつもりはないが。
「シュリアニ、ハジハカカセラレナイナ。リョウカイシタ。ソレデ、オレハドウスレバ?」
「ありがとう。すぐに衣類を用意させよう。セバス、ツァールト君に合うように仕立てさせてくれ。」
「承知致しました。では、ツァールト殿はこちらへ。予め、仕立て屋は手配しておりましたので。」
セバスさん、優秀過ぎるだろ!もう予知じゃん!
俺はセバスさんの後について仕立て屋がいる部屋へと向かう。え?シュリア?もちろん俺が肩車しています。俺よりわくわくしてるね。ちょ!シュリアさん?ツノはハンドルじゃないからね!?頭ユラサナイデー!!
「こちらでございます。ツァールト殿をお連れしました。採寸をお願い致します。」
セバスさんと部屋に入ると、仕立て屋だと言う中年の女性が何人かいたが、みんな一様に俺の姿を見て怯えていた。…………まぁ、これが今までの普通だったしな。こちらから話しかけるべきだろうか。
すると、シュリアが降りたがったので降ろすと
「わたしの従魔のツァールトよ!とても優しくて、賢いの。だから……そんなに怯えないであげて。あなたたちの安全は、シュリア・ディム・ネーヴェルクの名において保証します。」
俺が逡巡しているうちにシュリアが紹介してくれた。真剣な表情で言葉を伝えた、幼く小さなその背中に、俺は胸が苦しくなった。シュリアの隣に立つって決めたんだ。負けてはいられないよな。
「オレハ、アナタタチノシジニシタガウ。ムズカシイコトトワカッテイルガ、アンシンシテホシイ。ヨロシクタノム。」
なるべく恐怖を与えないように、ゆっくりと頭を下げる。すると、部屋の空気が緩んだ気がした。
「………こんな魔物が生まれることもあるんだねぇ。私ぁ、魔物の服を仕立ててくれってセバスさんに聞いて不安しかなかったんだけどねぇ。こんなに礼儀正しくお願いされちゃあ、信じるしかないじゃないか。お嬢様にまで頭さげさせちゃったからね。よし!私らに任せておきな!綺麗な顔したオーガのアンタに似合う服にしてやるよ!」
おばちゃんの一人が力強くそう言ってくれたことで他の人もぎこちないものの、笑顔で頷いてくれた。
「アリガトウ。」
「ありがとう!それでね、ツァールトは騎士さまみたいなお洋服が似合うと思うの!できるかしら?」
シュリアにはどうやら俺に騎士になってほしい思いがあるようだ。ま、まぁ、俺もちょっと楽しみにしているんだが。さっきのおばちゃんの言葉からして、俺のオーガとしての顔は見られなくないものらしいし。
「任せといて下さいね!私らもいい経験だと思って仕事しますよ!」
それからはおばちゃんたちがテキパキと俺を採寸していき、シュリアとデザインについて相談していた。出来上がりは一ヶ月くらい後になるらしい。今から楽しみだ。取り敢えず今は魔導士のローブらしきものを着ることになった。それでもさすがは公爵家といったところか、とても肌触りの良いものだった。
「ツァールト!ローブも似合ってるわ!こっちに来て!」
シュリアに手を引かれていくと、これまた高級そうな姿見が置いてあった。
腰を落とさないと顔が映らなかったが、そこで初めて自分の顔を見た。赤黒い髪からは紅の双眸が鋭く覗いており、鋭い牙、そして冷たく整った印象を受けるものだった。
「格好いいわ、ツァールト!あなたはわたしの騎士さまみたいね!」
満足げに頷くシュリアを見てオーガに生まれて良かったと思った。
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