第8話 オーガ、自分を知る

採寸が終わったあと、シュリアは勉強の時間だと言うことで嫌々ながらも俺から離れていった。目に涙を溜めたまま俺の名前を呼ぶシュリアには酷く心が痛んだが、勉強は大切だからな。俺が近くにいるとシュリアが集中できないだろう。ちなみに、シュリアを引っ張っていった先生は三角眼鏡を掛けた厳しそうな女性であった。シュリア、強く生きるんだぞ………。


さて、シュリアが居なくなってしまったので俺は何をすればいいのか分からないぞ。特にどこにいろとも言われてないしな。トレーニングとかしようか………


俺が部屋から出て立ち竦んでいると、廊下の先からジルドさんが向かってくるのが見えた。なんか用事があったような………そうだ!ジルドさんに『俺のこと』について聞きたいと思ってたんだった。


「よぉ、どうした?こんなとこに突っ立って。お嬢様は………この時間だと勉強か。」

「オレハ、ベンキョウノジャマニナル。ダカラ、ヒトリデドウシヨウカトオモッテイタンダ。」

「あー、そうだよなぁ。………お前さん、自分がどんな魔物なのかは分かってんのかい?もし知りたいってんなら俺も時間を持て余してたし、教えてやるけどどうする?」


ジルドさんはエスパーだったのか。バックに収まっちゃったりするんだろうか。まぁ、ジルドさんエスパー疑惑は置いておいて、この話は渡りに船だな。


「チョウド、タノモウカトカンガエテイタ。ヨロシクタノム。」

「おう。んじゃ、セバスさんに言って書庫を借りよう。確か、魔物について書かれているものがあったはずだ。」


ジルドさんに頷いて返すと、まだ先ほどの部屋で仕立て屋の人と話していたセバスさんが丁度いいタイミングで出てきた。てか、良すぎないですか?セバスさん。


ジルドさんがセバスさんに事情を話すと快く承諾してくれた。というわけで、ジルドさんについて書庫へと向かう。





「よし、まずは魔物について書かれた本だな。あったほうがお前さんに説明しやすいしな。」


早速、ジルドさんは本を探し始めた。そして俺はというと、字が読めないので近くにあった椅子に座ってじっと待つ。………勉強しよう。


「ジルド、ヨミカキヲオボエラレルモノモオネガイシタイ。」

「あー、そりゃあそうか。言葉が話せるもんだから失念してたぜ。わかった。しっかし、話せば話すほどお前さんは魔物らしからぬ魔物だな。勉強まで始めんのかよ。」


そう言ってジルドさんは笑いながら本を探しだして持ってきた。机を挟んで向かいの椅子に座ると、まずは魔物の本の絵が付いているページを開いて見せてくれた。


そこには、瓦礫の山となった辛うじて城であっただろうと判る絵が描かれていた。これはどういうことだろうか?


「手っ取り早くお前さんが自分という『魔物』を理解するにはこれが一番だな。この絵は『ブライ・オーガ』がだ。」


ジルドさんの口から告げられたそれは大いに驚愕させられるものであった。たった一体の魔物がこんな力を持つのか………。今更ながらに、自分の体が怖く感じられた。


「まぁ、お前さんはまだこんな事は出来ないけどな。ブライ・オーガっつうのは名前の通り群れることはないが、『個』で容易に国を落とせる魔物なんだよ。」

「カノウセイ?」

「そう、あくまでも可能性だ。ブライ・オーガが災害と評される所以ゆえんはその特性にある。お前さんも持っているであろうその特性ってのは、『強敵と闘う度に能力が倍増する』というものだ。これは経験で少しずつとかそんなレベルの話じゃなく、二戦目には絶対に勝てなくなるくらいの変化がある。お前さんも俺たちを助けたときに感じたはずだ。」


……どうやら、俺が思っていたよりも俺は危ないやつらしい。確かに、オーガを殴ったときに自分の体が急に力を増した感覚があった。あれが能力の倍増する感覚だったのだろう。いつかシュリアを傷つけてしまわないだろうか。俺が硬い顔して本を睨んでいるとジルドさんの茶化すような声が聞こえた。


「ま、お嬢様を護るお前さんはどんどん強くなって、俺たちに楽させてくれよ〜。」


確かに、どんなに強大な力を持っても正しく使えばいい訳だしな。そう怯える必要もないか。


「オレノコトハワカッタ。アトハ、『マオウ』と『マモノ』ノカンケイニツイテモシリタイ。」


俺はもうひとつ、グランバルドさんとの会話で出てきたことについて知りたかった。昨日、グランバルドさんは『魔物』である俺が『魔王』に対して敵対する意志を示したとき驚いていたのだ。何か繋がりがあるのだろうか?


「魔王と魔物か……。そこは俺もお前さんに関して唯一危惧しているところでもあるな。いいか?基本的にんだ。生まれたときからな。理由については今も解ってないけどな。………魔王とは遭遇しないようにしてくれ、っていってもあちらさんも災害みたいなものだからなぁ。今のところ、勇者くらいしかまともに対応できねぇだろ。」


俺は大丈夫だと思うが、油断は禁物だよな。せめてこちらからは魔王に近づかないようにしよう。


「でもまぁ、あちらさんの大将が早々に勇者のいるこの王都に出張ってくることはねぇだろうよ。」


それはそうか。勇者というのは魔王軍に対する抑止力になっているんだな。しかし、どんな人なんだろうか?ラノベなら爽やかなイケメンってのが定番だな。


「ユウシャハ、ドンナヤツナンダ?」

「勇者?勇者様は異世界から召喚されたんだが、えらい美形らしいな。人を寄せ付けず、淡々とひとりで魔物を屠っていくって噂だ。お前さんも狩られないように気をつけろよ?」


なるほど、クール系のイケメンだったか。しかもぼっちと………。仲良くなれるかもしれない。主にひとりのときに何をしてるのかの話題で。


俺がまだ見ぬ勇者に親近感を覚えて何度も頷いていると、ジルドさんが口を開いた。


「俺が教えてやれるようなことはこんなもんだな。あとは………よし、お嬢様の勉強が終わるまでまだ時間もあるし、ちょっと体を動かさねぇか?お前さんは闘えば闘う程に強くなれるんだ。時間は有効活用したいだろ?俺もお前さんと闘ってみたいしな。」


ジルドさんは口をニヤッと吊り上げ楽しそうに誘ってきた。


戦闘というものに慣れないといけないと思っていたところだ。ぜひ、お願いしたい。


「ノゾムトコロダ。」


俺もニヤッとして返すと、ジルドさんがビクッとした。


はいはい、俺の顔は怖いですよーだ。

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