第10話 冒険者ギルド(1)

ジルドさんと訓練をした翌日の朝、食事が終わるとシュリアは今日もお勉強だ。既に先生に連行……ついて食堂を出て行ってしまった。またしてもやることがないなと思っていると、グランバルドさんに呼び止められた、


「ツァールト君、昨日はジルドと試合をして勝ったそうじゃないか。その調子でシュリアの騎士になってくれ。それで本題だけど、やることがなくて君が困っていると思ってね。ジルドも毎日暇な訳ではないから訓練も出来ない。そこで、僕のツテを使って君に職場を与えようと思うんだけどどうかな?やってみるかい?やりがいのある仕事だと思うよ。」


ニコニコ顔のグランバルドさんに少し警戒するが、事実俺にはやることがなさすぎる。これじゃあ、シュリアに置いていかれてしまうからな。何事も経験はしてみるべきだ。


「ゼヒ、タノミタイ。」


俺の答えを受けてグランバルドさんは鷹揚に頷くと、なにやら手紙らしきものを渡してきた。


「これは冒険者ギルドのギルド長あての君の紹介状だ。これで特別に魔物である君も冒険者になれるだろう。」


おお!ラノベでみたことがあるぞ!冒険者か!テンプレはあるのだろうか?楽しみになってきた。


「冒険者ギルドの場所は………案内を付けよう。丁度よくエレナ君の手が空いていたはずだ。彼女は一流の冒険者でもあるからね。先輩にいろいろ教わるといい。」


エレナさんかぁ………大丈夫だろうか?俺がいることは認めてくれたけど、関わろうとはしなかったしな。


昨日の夜も廊下ですれ違ったのだが、明らかに警戒されていたし。挨拶しようと思って手をあげたらびくっ!として泣きそうになってたし。ちょっとエレナさんをかわいいと思ってしまった。………いやいや!泣かせて喜ぶなんて最低だ!


「エレナハ、オレガニガテダガダイジョウブダロウカ………。」

「君ならエレナ君とも仲良くなれるさ。むしろ君であればこそ………いや、なんでもない。ともかく、二人で冒険者ギルドにいって、ついでに簡単な依頼でも受けてくるといいよ。君の頑張り次第で市民の信頼も得られるかもね。」


渋々了承すると、準備ができたら屋敷の外で待っているように言われた。特に準備するものもないので、屋敷の外を目指して廊下を歩く。


すると、廊下の高い所を脚立に登って掃除しているリーナちゃんを見つけた。………危なすぎる。


近づいていくと、ご機嫌に鼻歌を歌いながらハタキのようなもので掃除していたリーナちゃんは俺に気づいて振り向く。


「あっ!ツァールトさん!おはようございますっ!今日もいい天気……きゃ!?」


ああ!やっぱり!こうなると思ったよ!


脚立から足を踏み外したリーナちゃんが落下する前に下にいき受け止める。図らずもお姫様抱っこになってしまった。


「……ダイジョウブカ?リーナ。」

「はわ、はわわ!ご、ごめんなさい!大丈夫ですぅ!私がそそっかしいばっかりに!」


真っ赤になった顔を両手で隠しながら謝ってくるリーナちゃん。まったく、心臓に悪い子だな。いろんな意味で。


「ケガガナクテヨカッタ。」

「はぁ〜………素敵です……。」


ゆっくりとリーナちゃんを降ろすと、惚けた顔で俺を見つめている。


思ったことがすぐ口に出てしまうんだろうか?どうやら、リーナちゃんは惚れ症っぽいところがあるらしい。ますます将来が心配だ。てか、全く隙のないセバスさんの孫とは思えないな、知れば知るほどに。


「ソレジャ、オレハヨウジガアルカラシツレイスル。キヲツケテ、シゴトヲガンバッテクレ。」

「!あ、ありがとうございました!」


再度、外に向かって歩き出す。しかし、シュリアに伝えていないことを思い出して、振り返る。昨日、ジルドさんと勝手に居なくなったことでシュリアにちょっと怒られたからな。ちゃんと伝えておこう。


「リーナ、スマナイガシュリアニオレガデカケルコトヲツタエテオイテクレ。エレナモイッショダ。」

「わかりました!任せてください!お嬢様に間違いなく!お伝えしますね!」


リーナちゃんは輝く笑顔でそう言って胸を叩いた。んで、咳き込んだ。


……………ものすごく心配だよ、鬼いさんは。






屋敷の門のところで無言で門番さんと並んで立っていると、エレナさんが屋敷の方からやってきた。


「………頑張れよ。」

「………アア。イッテクル。」


門番さんと絆を深めた。


「………すまない。待たせたようだな。話は聞いている。先達としてお前の力になろう。」


かなり緊張している様子のエレナさん。ここは場を和ませたいな。


「ヨロシクオネガイシマス!アネゴ!」

「っ!?あ、ああ、了解した………。」


やっちまったぁーー!!めっちゃびびってるよエレナさん!もう涙出てるじゃん!声もエルフ耳もぷるぷる震えてますよ!ごめんなさいーー!!冗談が通じるような仲になれてませんよね!?そりゃこーなるわ!!


「………ス、スマナイ。」

「……………問題ない。こちらこそ、こんな態度で済まない……。」


始まりからかなり気まずいな……。いや、俺のせいだけどね!?


でも、エレナさんが優しい人で助かったな。…………仲間の仇だと言っていたのに。仇と同じ種族の俺であろうとも、俺自身を見てくれている。だからこそ仲良くなれるかもしれないと思ったんだ。今日は仕事だけじゃなく、そっちもがんばろう!






とは言ったものの………気まずい空気のまま、二人で並んで歩いております。しかも微妙に距離を取られている……。俺じゃなかったら泣けるぞ、この対応。


「………………。」

「………………。」


なんとかして空気を変えたいんだが……どうしたらいいんだ!?ただでさえ対人経験が少ないというのに。こんな場面は前世の愛読書、『これを読めば友達100人!〜猿でもできる人と仲良くなるための88ヶ条〜』にも載っていなかったぞ!…………前世でこの本が役に立ったことは一度もないが。


俺がそんな現実逃避をしていると、不意にエレナさんが話しかけてきた。


「お、お前はジルドとの試合に勝ったそうだにゃ…………勝ったそうだな。す、すごいじゃにゃい…………すごいじゃないか。」


なんだこのかわいい生き物!!キリッとした顔とのギャップが凄まじいぞ。カミカミで声震えまくりって………。


でも、まぁ、笑うのは失礼だよな。エレナさんも俺に恐怖心があるのに、頑張って仲良くしてくれようとしているってことなんだから。


こんなにあたたかい人との繋がりは大切にしたい。


「アリガトウ。ダガ、ギリギリダッタ。ジルドハツヨイナ。トコロデ、エレナハマホウツカイナノカ?」

「名前を………。」


あ!本人の前で名前呼んだのは初めてだったか!不快にさせてしまっただろうか。


「スマナイ。ナントヨベバイイダロウカ?」

「い、いや、名前で構わない。ただ、覚えていたのだな、と思っただけだ。」

「オセワニナルヒトノナマエヲワスレルコトナドシナイ。ソレニ………。」

「それに?」

「『トモダチ』にナッテクレルカモシレナイノダロウ?」


俺がなるべく優しい顔に見えるように表情筋をフル活用して微笑みながらそう言うと、少し驚いた顔をしたが、エレナさんも微笑んで返してくれた。


「ふふっ………そうだな。お前となら、仲良くなれるかもしれない。」


ふと、視線を足元に落とすと、並んで歩く俺たちの影はいつのまにか距離を縮めているような気がした。






「着いたぞ。ここがバルティア王国最大の冒険者ギルドだ。王都だから当然ではあるがな。」


冒険者ギルドは木造の三階建ての立派な建物であった。剣や槍などを身に付けた屈強な人や、ローブを着て杖を持った人など、いろんな人が多く出入りしていた。


まさに想像通りだな!かなり楽しみだ!


「では、お前の登録を済ませるとしようか。」


エレナさんに続いて、わくわくとしながら冒険者ギルドへと歩みを進めた。

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