第2話 「B店長の落とし物」




 いまの職場は飲食店である。で、B店長はほぼ毎日グラスを落として割る。


「あー!」

 ガシャン!


 この展開が、ほぼ毎日ある。


 そのときのぼくの掛け声はこうである。


「本日のノルマ、達成!」




 で、グラスを毎日割るB店長。物をよく失くす。そのツートップが財布と携帯だ。


「財布を落としたときのために、予備のお金をちゃんと持っているのよ」と自慢していたが、それ自慢になってねーから。



「ぼくは財布なんて落としたこと、いままで一度もありませんよ。拾ったことならあるけど」


「あたしだって、拾ったことあるわよ!」

 自慢げである。

 まるで財布を拾うと、落とした過去がひとつ消えるたみいな言い方していた。




 以前、池袋で携帯を落としたときは、大騒ぎだった。


 まず東武百貨店の遺失物に行った。つぎに西武百貨店の遺失物に行った。そして西武鉄道の遺失物に行き、東武鉄道の遺失物にいき、池袋警察署にも届けた。



 何日かして出て来たらしい。平然と手にしてやがる。それにしても、何度も失くして、毎度毎度出てくるのが凄い。


「あれ、携帯、出て来たんですね?」


 ちょっとびっくりして聞いてみた。


「ありました」すげー偉そうにいいやがる。「うちのクッションの下に落ちてました」


「…………」




 このまえは、本日お休みのB店長に緊急の連絡があり、店の電話からB店長のスマホに掛けたら、なかなか出ない。


 なにしてやがんだと、いつまでも呼び出していて、はっと気づいた。



 すぐそばの棚の上で何かが、ブーブーと振動している。


 B店長のスマホだった。


 ま、ここにあるんじゃ、出ないわな。


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