第8話 百貨店のB店長② 「B店長ノリノリ」




   ◆◆◆お食事中の方は、閲覧をご遠慮ください◆◆◆



   ◆◆◆また、爆笑にもご注意ください◆◆◆




 もう何年も前、百貨店の地下食料品売り場にある、カウンター式のイートイン・コーナーでB店長と一緒に働いていたときのことである。


 百貨店というところは、いろいろとお客さんからクレームがくる。


 ある朝、パートのおばちゃん二人が仕事のことで会話していたら、隣の店のカウンターに座っていたお客様から、「従業員がお喋りしている」とクレームが来たらしい。


 べつに仕事の会話だったし、問題はなかったのだが、そのときのお店は、二軒の別店舗のカウンターがくっついていて、ちょっとした仕切りみたいな板が間にある、その程度の区分けしかされていなかった。


 カウンターに座った状態で、人の肩の高さまであるかないか。そんな感じの鉄板一枚で区切られていたわけだ。


 つまり、仕切られてはいるが、カウンターについたお客さんとの距離は近い。


 うちにお客様がゼロでも、隣のお店のカウンターに座ったお客様にとって、うちの従業員は極めて近いわけだ。


 うちの従業員的には、『うちのお客様』じゃなかったとしても、その距離は最短で1メートルを切る。話している内容なんかは、もちろん丸聞こえなのだ。



「ぼくたちから見たら、他店のお客様でも、距離としてはとても近いから、たとえ仕事の話だったとしても、お喋りしていると誤解されるから、注意した方がいいよね」


 と、クレームを受けたパートのおばちゃんたちとそんな会話を交わしていた、ちょうどその日の午後のことである。




 B店長が、いつもの定位置で洗い物をしていた。そしてこの人は、洗い物をするときに、黙っていることがない。


 うちのカウンターにお客さんはいない。が、となりのお店のカウンターの端、つまりB店長と直線距離で1メートル以内に、ひとりお客様がいて、お食事中。


 そんな状況で、前回と同じシチュエーション。作業をしているぼくにB店長がご機嫌に話しかけてきた。



B店長「ねえねえねえ、この話、しったけ? あれは、さすがにあたしも、駅員に通報したわよ」


 基本B店長の声はでかい。



雲江「なんすか?」


 すぐに近くにいるお客様を気にしつつ、控え目にリアクションするぼく。


B店長「夜おそくに電車に乗っていたら、立っていた男がゆらゆら揺れ出したのよ! やばいなーと思って見ていたら、そいつが急に、ドバーーーっ!てゲロ吐き出したのよ!」



 なんの話をし出してるんだよ! こいつ! もう! ふざけんな、このババア!


 さすがに、焦って心の中で叫んだ。



 だって、すぐ目の前、1メートルも離れていない場所で、お客さんが食事してるんだよ。いきなりゲロの話なんかするな、アホ!


 そう叫びたかったが、まさかお客さんのいる前で大声出すわけにもいかない。



 やべえ、とうつむいて、話が通り過ぎるのを待つ。


 とにかく、ぼくが喰いつこうものなら、B店長が調子づく。ここは低いテンションで応じて、会話が自然にトーンダウンするのを待つしかない。そう思ったのだ。



 が、B店長は、そんなぼくの心情に気づかず、トーンダウンしたぼくのリアクションを「ウケてない」、そう判断したようだった。


 ちょっと、黙った。

 そして、どうやらウケてないと判断したB店長は、つぎにこう言った。



B店長「あ、じゃあ、この話はしたっけ? 電車でウ〇コ洩らした男がいた話!」


 うっっわぁぁ―――! あ、アホかぁーーー! ネタをパワーアップして、どうするんじゃぁーーー!


 さすがに青くなった。


 とにかくこの場にいたらヤバいと判断し、作業を放り出して、カウンターの一番端まで避難する。お客さんから一刻も早く離れないと、大変なことになる。


 そう思って、歩き出し、一番端っこの壁まで移動して、文字通りぼくは壁に手をついた。


 が、興が乗ってしまったB店長は止まらない。


 もう、電車の中でウ〇コを洩らした男の話を、ラジオ体操第二みたいなオーバーアクションのジャスチャーつきでノリノリで話してくる。



 壁に手を突きながら、ぼくは思った。


 いったい、ぼくは、ここで何してるんだろう?




 まあ、このときは、クレームは来ませんでしたけどね。めでたし、めでたしである。(そうかあ?)


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