第43話 ぼくは口の中で「あのババア」と叫んだ
みなさんに、残念なお知らせがあります。
すこし前に、うちのB店長が他店舗へ異動になってしまったのです。おかげで、更新が滞っております。困ったもんだ。
で、そのB店長。まったくこっちにこないわけでもなく、週に一回くらい手伝いに来ます。
ちょっと前に来たときは、12:00からの出勤だったので、余裕をもって11:50に到着。そして11:55に、
──がっしゃん!
B店長「あー」
5分でなにかひっくり返しました。こういうときのB店長は、あんまり大声出しません。もう慣れてるんですね。
が、一緒にいたアンナちゃん(20代後半 女性)はびっくり。
アンナ「なんすかっ!」
雲江「いつものスキル発動です」
という感じで、週に一回なにかをひっくり返しにきています。
で、昨日。
昼にきて、いきなり湯呑を鮮やかに90度横に回してお茶をぶちまけたB店長。
B店長「ごめんなさい、久しぶりでブランクがあるから」
いや、逆にブランクを感じさせんわ。
昨日は、ぼくとB店長とトシちゃんが締めでした。時刻は九時過ぎ。
レジ締めはB店長。お店は完全に片付いて、あとは入金機に現金を入れてくれば終了という状態。が、入金室にいったB店長がなかなか戻ってこない。
うちは、おおきな商業施設のなかにある店舗なんで、売上金は閉店後、セキュリティーの厳しい入金室の入金機、ATMみたいな機械に入金します。
そこに行ったB店長がなかなか戻って来ず。
だいたい、こういうパターンでは、戻るなり顔をしかめたB店長が、時間を食った原因に対して逆切れするんですが、もどってきたB店長はにやにやしてました。
B店長「バレた?」
雲江「なにがっすか?」
B店長「入金カードが、どこにも無いのよ」
それ大ごとである。つまり銀行のキャッシュカードを失くしたのに近いから。ただし、入金カードは、出金はできないから、そこは心配ないのだが、入金できないと、帰れないでしょ!
入金カードは、ファスナー付きのファイルケースにいつも入っている。このファイルケースには、他に入金室へ入れるセキュリティーカードや倉庫のカギ、金庫のカギ、店のカギといった重要なアイテムがまとめて入られらている。
B店長「で、夕方倉庫に行ったとき、あたし、この中身(ファイルケースの中身である)を全部ぶちまけちゃったんで、倉庫に(入金カードが)あるかと思って、いま地下3階までいって探してきたんだけど、どこにもなくて、でも、よく確認してなかったから、前の人(昨晩入金した人)が失くしてるかも知れないわ!」
つまり、夕方に倉庫でファイルケースの中身をぶちまけたから、そのときに入金カードを落としたかもしれないと思って探しにいっていたらしい。が、入金カードは見つかっていない。
でも、それ以前にファイルケースの中身を確認していないから、もしかしたら、昨晩カードをつかった人が失くしていて、最初から入っていなかったかもしれない、と主張しているのだ。
まず、なぜ地下の倉庫にファイルケースごと持ってった? 倉庫のカギだけでいいじゃん!
そして、なにをどうやって、中身を全部ぶちまけるアクションにつながった? もう偶然を通り越してご都合主義としか思えん。
さらに、この状況で、『もしかしたら、失くしたのはあたじゃないかも』という楽天的な思考の出どころを知りたい。もうファンタジーのレベルだ。
ぼくの結論はこうだった。
絶対に地下倉庫で失くしてる!
雲江「じゃあ、とりあえず、地下倉庫を探してきますよ」
ちなみに、地下倉庫は、B店長いわく、「いまあたしが、全部ひっくり返して探したのよ」とのことだが、……いや、ここまで読んでくれた読者諸兄に説明は不要だろう。
倉庫のカギだけもって、地下倉庫に行き、ドアをあけた。
夕方にB店長がぶちこんだ段ボール箱が入り口まで溢れていて、ただし大した量ではないので、足元にちょっと積み上げられている程度。小さいが重い箱を出口から外の通路を出して床を露出させ、棚の下を覗いてみる。無い。
つぎに段ボールの中。口が開けっ放しだから、ここから中に入って、詰め込まれた書類の脇に落ちているかもしれない。それくらいのミラクルは簡単にやってのける人だ。
何年か前にもB店長、金庫のカギを失くしたことがある。
そのときは中からお金が出せなくて、大騒ぎだった。狭い店なのに、どこをどう探してもカギは出てこない。金庫のカギなんて、保管場所と金庫の間を往復するだけだから、そんな突飛なところには落ちないはずなのに。
5日後、でてきた。
B店長「どこにあったと思う」
妙に自慢げなのが腹が立った。
12個箱のなかにあったらしい。
12個箱とは、商品を12個入れられるギフトケースのことで、お客さんが来てから組み立ててたら時間がかかるので、組み立てて、棚の下の引き出しにしまい込まれている。その、棚の下の引き出しにしまいこまれた、12個箱の中に、金庫のカギは入っていたらしい。
わかるか、んなもんっ!
なにをどうすれば、そんなところに入るんじゃーい!
というような、過去のあるB店長。ぶちまけた中身が、かなりなミラクルでもって、おかしなところに入り込んでいる可能性は高い。
が、狭い倉庫。人が一人入って立てばもうスペースがない。あとは、積み上げられた箱と、背の高いスチール棚があるだけ。探す場所は、もう無いに等しい。
ちょっとあきらめたぼくは、ふうっとため息をついて腰に手を当て、目線をあげた。そして、口の中で叫んだ。
「あのババア!」
目の前に、入金カードがあった。
ぼくの目線の少し上。棚におかれた包装紙を包んだ茶紙が垂れ下がって折り返された場所に、白いカードが引っかかっていた。
なにを、どう、ぶちまければ、こんな高い場所に、磁気カードが飛ぶんじゃーい!
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