第42話 ヤマモっちゃんの両替


 これはもう10年くらい前のエピソードです。


 ヤマモっちゃんは、ぼくが、とある百貨店内のお店で、店長をしていたときのバイトの女の子。



 すらりとしてスタイルはよく、顔はアイドル系。落ち着いた雰囲気の大人っぽい19歳。全体的に女優のようなルックスでした。

 しかし、その実態は、方向音痴で遅刻魔。立教大の生徒でしたので頭はいいはずなんですが、アホでした。




 あるときは、ジーパン履いて仕事をしようとして百貨店の人に怒られ、またあるときは、入館証以外全部忘れてきて、ユニホームがなく、ロング・スカート履いて仕事していました。百貨店の食品売り場でです。



 で、あるとき両替を頼んだら、走って戻ってきて、


ヤマモっ「すみません、十円玉両替できませんでした」


 百貨店内には両替機が置かれた場所があって、そこで釣銭を両替します。


 ヤマモっちゃんに頼んだ十円玉の棒金2本は、金額としては1000円。その1000円を両替するために、ヤマモっちゃんは500円玉を2枚もっていったらしいです。


 両替機に、小銭は入りません……。紙幣のみです。って、それ、まだ気づいてなかったのか。




 で、その何日か後。


 結構いそがしい時にふたたび両替を頼むことになりました。


 全部任せると不安なんで、両替の金種伝票をぼくが書きました。

 5000円が何枚、百円玉の棒金が何本。そういったことが表になっていて、つまり持っていく金額と、持ってくるお釣り銭が一目でわかるようになった伝票です。


 でも訂正箇所が多かったし、ぼくは極めて字が汚いので、ヤマモっちゃん本人に清書させて両替に行かせました。



 もどってきたヤマモっちゃん。


「すみません。まちがえちゃって。でもだいじょうぶです!」


 むかしテニス部だったらしく、変なところで体育会系の気合がでる。


「どうしたの?」ときくと、どうも伝票写す段階で一行ずらして書き写したらしい。




 5円玉の棒金を4本、計200枚も持ってきた。

 5円玉は、一人のお客さんに、渡すとしてもせいぜい1枚までなので、そんなにいらないです。



 さらに伝票通りとするならば、500円玉を250円分持ってきたことになる。

 どうやってだ?





 そんな彼女は、将来はツアーコンダクターになりたいと言っていた。しかも海外旅行の。



 だが、ある日の遅刻のいいわけが、



ヤマモっ「女子更衣室いく途中で見たことないエレベーターみつけたんですよ。で、乗ってみたら知らないところに着いちゃって……」


 その後、どうしているんだろうか、ヤマモっちゃん。




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