第3話 「B店長への誕生日プレゼント」




 B店長は、毎日毎日グラスも割るが、頭や肘を角にぶつけて「あ痛!」とも叫んでいる。冷凍庫にはB店長がぶつけたときのために使うミニサイズの保冷剤が保管されている。



 あんまりぶつけるもんだから、

「スケボーする人がつけているアーマーみたいなのが欲しいわ」

 とか言い出した。


「いや、あれつけて接客している飲食店の従業員って、見たことないんですけど」



 まあ、そのときは冗談ですんだのだ。


 が、後日、B店長の誕生日のときに、ぼくが冗談でインラインスケート用のアーマーセットをプレゼントしてあげた。


 ぼくは先に帰ったのだが、閉店後、このプレゼントを開けて、アーマーをつけてみて、一緒にいたパートのおばちゃんと大笑いしたらしい。


「ガンダムみたい!」と。


 で、こんなの仕事中につけられない、と。




 が、翌日。例によって、がんがん肘をぶつけたB店長。痛みに耐えかねてとうとう禁断のアイテムに手をだしてしまう。


 そう。「エルボー・アーマー」! とうとう、つけちまった。


 それ以来もう何年も、B店長はエルボー・アーマーつけて仕事してます。



 ところが、あれって、毎日つけていると一年くらいで壊れる。よって、毎年のお誕生日にエルボー・アーマー、プレゼントしてます。


 もちろん、テレビの取材とかきたときは、さすがに外していたんですがね……。




 が、以前、店の売り上げがよかった年に、ビルの方から表彰されて、その式典にアーマーつけたまま、つまり外し忘れて行っちゃったんです。賞状もらう写真が、社報みたいなのに掲載されていたんですが、彼女の両肘には見事なエルボー・アーマーが。

 あれ、表彰状を渡しているお偉いさん、どう思ったんだろうか?



 なので、たまに店に入ってきた新人のバイトの子とかに、冗談まじりに訊ねている。


「なんで、あの人、アーマーつけているか、不思議じゃなかった?」



 聞いてみると、案外みんな気にしてないみたい。が、ノリちゃん(二十歳、女子)は思いっきり面接のときに、聞いてしまったらしい。


「それって、制服なんですか?」と。


 B店長は不機嫌に「ちがうわよ」と言っていたらしい。


 ぼくがその話を聞いて笑っていると、ノリちゃんは言った。


「だって、あたしもアレ、つけなきゃならないかと思ったんですもん」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る