第6話 「そのネーミングは、どうかと思う」



 むかし、うちの職場に「中山」さんというバイトがいた。女の子である。彼女のあだ名が、ゴンちゃんだった。


 サッカー好きのB店長がつけたあだ名である。




 少し前、パートで来た女性の名前が「星野」だった。当然のようにB店長は、彼女を源さんと呼び出した。「恋ダンス」が流行っていた時期である。


 で、その源さんの給料が、ちょっとおかしかったことがある。B店長は本社に電話した。



 大声でまくしたてている。



B店長「源さんよ、源さんの給料がおかしいの。そう、そう、源さん! 源さん! 源さん!」


 興奮していた。


 が、ちょっして、


B店長「え?」


 と言葉につまり、あわてて近くの書類をひっくり返し始める。


 どうやら、電話口で「源さんって誰?」と聞かれたようだ。



B店長「えーと、源さん源さん源さんは……、えーと、源さん源さん源さん」


 源さんの本名を忘れたらしい。が、源さん源さん唱えても、出てこないようだ。


 が、しばらくして出勤簿をみつけたらしい。



B店長「あった! えーと、星野! 星野よ!」


 どや顔ならぬどや声で叫んでいる。つーか、自分で「星野源」からあだ名つけておいて、忘れるなよ。



 もっとも、うちの本社もいいかげんで、もう何年も前になるが、バイトの山本さんの給料明細の名前が「山本モナ」になっていたという信じがたい事実があるから、油断できない。



 で、この源さんがやめて新しい男子バイトがくることになった。




ザキ江「田原くんって言うらしいですよ」


雲江「えー、それB店長、まさかトシちゃんとか呼ばないだろうなー」


 まあ、いまの時代に田原俊彦でもないか。




 翌日出勤シフト表を覗いているとB店長が叫んだ。



B店長「来週から旅行よ」


 基本この人は、主語がない。



雲江「だれがですか」



B店長「トシちゃんよ!」



 そして基本この人は、説明なしで人をあだ名で呼んでくる。


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