第17話 少しは走れ!!メロス
メロスは激怒した。
必ず、かの
妹の結婚式の準備のためにシラクスへ向かったメロス。
しかし、街が異常に静かであることに気づき、住民から王が無実の人々を次々と処刑していると聞かされ、激怒した。
メロスは王宮に突入し捕らえられ、暴君に対して街を救うために行動すると宣言した。
この勇敢なメロスに対し、暴君ディオニスは、メロスの処刑を命じた。
メロスにはひとつだけ心残りがあり、妹の結婚式に出席したいと、王に嘆願した。
結婚式を終えたら、処刑されに戻ってくると。
そんなメロスの言葉を王は信じない。
暴君ディオニスは、民衆の言葉を信じられなくなっていた。
メロスは竹馬の友、セリヌンティウスを人質に、3日間の猶予をもらい、処刑されに戻ってくると王に伝えた。
王は、メロスを信じなかったからこそ、その願いを聞き入れた。戻ってくるはずがない、そう踏んでいたのだ。
事情をセリヌンティウスに伝えると、彼は二つ返事で快く引き受けてくれた。
友と友の間は、それでよかった。セリヌンティウスは、縄打たれた。メロスは、すぐに出発した。初夏、満天の星である。
出発したメロスはまず、グーグルマップを立ち上げ、シラクスから村への最短ルートを計算した。
電車、バスを乗り継ぎ、片道3時間ほどの道のりであった。
すかさずタクシーアプリを立ち上げたメロスは、駅までの配車を依頼した。
タクシーがメロスの目の前に着くまで、2分とかからなかった。
「どちらまで?」運転手が尋ねる。
「駅までお願いします。」
メロスは携帯電話の光を反射した顔で答えた。
支払いはアプリ内で済ませていたので、釣り銭の心配は無用だった。
「今晩は蒸し暑いですね。これからお帰りですか」
運転手の世間話に、メロスは無視をした。
セリヌンティウスの事を思うと、そんな気分ではなかった。
無言のタクシーが駅につき、駅の階段横のエレベーターで改札階へと移動したメロスは、パスモをタッチして改札を抜けた。
改札からホームまでは階段と、エレベーターがあったので、メロスはエレベーターを利用した。
次の電車まで4分。
メロスは空調の効いている休憩室へ入り、自動販売機で缶コーヒーを買った。
カフェオレが友の無事を願うメロスの喉をやさしく潤した。
電車が到着するなり、メロスは優先席へと腰掛け、窓の外を物憂げに見つめた。
隣の老夫婦は、メロスの発達した肩に押され、すこし窮屈そうではあったが、メロスには彼らを
電車が着くなりメロスは人混みをかき分け、改札を抜け、エレベーターを使って地上階へと降りた。
次のバスまで10分、時間があったので、コンビニで雑誌コーナーをウロウロして、メロスはバスに飛び乗った。
パスモの残高が1000円を切っていたので、降車時にチャージをして、バス停からメロスの自宅まではレンタルサイクルを利用した。
もちろん、電動タイプを使った。
メロスの十六の妹は、よろめいて歩いて来る兄の、疲労
「なんでも無い。」
メロスは無理に笑おうと努めた。
「市に用事を残して来た。またすぐ市に行かなければならぬ。あす、おまえの結婚式を挙げる。早いほうがよかろう。」
妹は頬をあからめた。
「うれしいか。綺麗な衣裳も買って来た。さあ、これから行って、村の人たちに知らせて来い。結婚式は、あすだと。」
メロスはその夜、死んだように深く眠った。
次の日、結婚式は無事行われた。
あいにくの天気だったが、村人たちは2人を祝福してくれた。歌や踊りや、楽しい祝いの席となった。
宴会は、夜に入っていよいよ乱れ華やかになり、メロスは明日シラクスに戻らねばならぬ身であることを少しだけ忘れられた。
メロスは花嫁である妹と、新郎に祝いの言葉を告げると、宴席から立ち去り、羊小屋にもぐり込んで、死んだように深く眠った。
明くる朝、メロスは跳ね起き、すぐに電動キックボードの駐輪ポートへと急いだ。
アプリ上で確認した1台は、他のユーザーに取られることなく、メロスが乗ることができた。
メロスは、バス停近くのポートに電動キックボードを駐車し、次のバスを待った。
バスを待っている間に、タクシーアプリで駅から王宮までの配車を予約。メロスほどの男にしか、先を見越して予約することはできない。
バスが到着すると一番前の、運転手の真後ろの席へ座った。効率を重視するメロスにとって、そこが特等席だった。
メロスはバスが駅に着くまで、死んだように深く眠った。
駅に着くなり、エレベーターを使って改札階へ着いたメロスは、改札を抜ける前に、目の前のコンビニでおにぎりとお茶を買った。
電車内で食べようかとも思ったが、待ち時間が15分もあるので、メロスは同様に空調の効いている休憩室へ入り、フィルムをめくっておにぎりへかぶりついた。
電車が到着するなり、メロスは優先席へと腰掛け、窓の外を物憂げに見つめた。
隣の老夫婦は、メロスの発達した肩に押され、すこし窮屈そうではあったが、メロスには彼らを
メロスは、この前も同じようなことがあった気がする、と思ったが、これから死ににゆく自分を思うと、何も考えられなくなった。
メロスは、優先席で死んだように深く眠った。
突如、途中の駅で電車が止まった。車内アナウンスによると、途中で人身事故が発生し、復旧まで30分はかかるという。
焦るメロス。乗り換えを調べ直し、急遽別の路線に変更を余儀なくされた。
背中に嫌な汗が流れていた。ホームから改札へ上がるエスカレーターに乗りながら、別のルートを見つけ出した。
特急から地下鉄に乗り換えるルートだ。
一度改札を出て、少し先の地下鉄へ歩く必要があった。
メロスは、改札を出るなり、タクシー乗り場が空いているのを見つけると、タクシーに飛び乗った。
「どちらま…」
「地下鉄の駅まで渋滞を避けてなるべく急いでください支払いはパスモで払います」
慌ただしくドアを閉め早口で指示するメロスに、運転手は顔を曇らせるも、タクシーは発車した。
地下鉄のホームでベンチに腰掛け、再度ルートを確認。
ルート変更のおかげで、余裕を持ってシラクスの王宮に辿り着けそうだ。
メロスは安堵した。
が、地下鉄がホームに着いたまま動かない。
設備点検のため、ドアを開閉するまでしばらくお待ちくださいとふざけたアナウンスが流れた。
メロスは激怒した。
ドアが開くなりメロスは人混みをかき分け、改札を抜け、駅員に遅延証明書を要求し、エレベーターを使って地上階へと上がった。
タクシーの停車エリアでアプリを開く前に、運転手が待っているのが見えたので、メロスは軽く目配せをして、後部座席に乗り込んだ。
「王宮に用事なんて珍しいですね、お仕事ですか?」
運転手が軽快に話しかけたが、メロスは無視を決め込んだ。
友であるセリヌンティウスの身を案じている時に、世間話には付き合っていられなかった。
もう、いくばくの猶予もないのだ。
王宮への道路は、渋滞していた。セリヌンティウスの処刑を、王はお祭りのように囃し立て、シラクスは人混みで溢れかえっていたのだ。
タクシーはなかなか動かずにいた。
ふと、メロスの視界に、朝使った電動キックボードがポートに停められているのが見えた。
すかさずアプリを確認する。使用できる!
メロスはタクシーを飛び出すと、電動キックボードを使って、王宮へと急いだ。
1日2回も電動キックボードを使うとは、メロスは思ってもいなかった。
後ろから、「ああ、メロス様。」うめくような声が、風と共に聞えた。
「誰だ。」メロスは走りながら尋ねた。
「フィロストラトスでございます。貴方のお友達セリヌンティウス様の弟子でございます。」
メロスの後について走りながら叫んだ。
「もう、駄目でございます。むだでございます。走るのは、やめて下さい。もう、あの方を……待って!」
メロスはフィロストラトスに返事をしようと思ったが、振り向いた頃には彼の姿はなかった。
電動キックボードは、人間の足よりはるかに早い乗り物なのだ。
王宮に到着したメロスは、今まさに広場で磔にされ、処刑されようとしているセリヌンティウスを見つけて、大声で叫んだ。
「待て。その人を殺してはならぬ。メロスが帰って来た。約束のとおり、いま、帰って来た!」
群衆がメロスへと注目する。
「私だ、刑吏! 殺されるのは、私だ。メロスだ。彼を人質にした私は、ここにいる!」大きな声で、元気いっぱいに叫んだ。
どっと群衆の間に、歓声が起った。
セリヌンティウスの縄は、ほどかれたのである。
メロスはセリヌンティウスに自分を殴るように願った。途中で、少しだけ諦めてしまった自分が許せなかったのだ。
全てを察したセリヌンティウスは、メロスの頬を力いっぱい殴った。
それから、メロスを一瞬でも疑った自分も同罪だと、頬を差し出した。
メロスは腕に唸うなりをつけてセリヌンティウスの頬を殴った。
「ありがとう、友よ。」
二人の様子を見ていた暴君ディオニスは改心し、2人に近づき、こう告げた。
「お前たちの絆は本物だ。人を信じることの素晴らしさを見せてもらった。
どうかわしも、お前たちの仲間に入れてくれないか」
どっと群衆の間に、歓声が起った。
「万歳、王様万歳。」
メロスはその夜、死んだように深く眠った。
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