第12話 閉じ込められた男

1

「は?」


「おい。」

「見えるか。文章が見えているのか。」


「単刀直入に言う。助けてほしい」


「俺は今、小説の中に閉じ込められている。」


「なぜ閉じ込められてしまったのかは分からない。」


「小説の中から出る方法も、マギで分からない。」


「マジで分からない。」


「すまん。わざと間違えた。」


「ただ何となく小説的な表現をしたらマズイ気がして、敢えて言葉遣いも崩している。」


「物語を進めたらマズイ気がするんだ。」


「気づいたらここの中さ。」


「ここから出る方法を考えてくれないか。」


「たぶん、俺が今いる場所とか、説明しようとすると描写される気がして、何も伝えられないんだわ。」


「とにかくアンタ。」


「この文章が見えているなら、俺を助ける方法を考えてくれ。」




2


私は小説を読んでいた。

「おい!」

小説の中では、主人公らしき男が

「てめえ!」

物語の中から脱出しようと試みているようだ。

「進めんなっつったろ!」

違う。私が意図的に進めたのではない。

「なにが違えんだ!おい!おら!」

私はただ、彼を救う方法を考え始めたのだ。

「はっ?あぁ…」

しかし考え始めた途端、物語が動き出してしまった。

「…最悪だ」

もしかしたら、私が考えていることが文章として反映される仕組みなのかもしれない。

「お!おお!」

確証はないが、これがもし本当なら、彼を助けることができるかもしれない。

「マギか!いやマジか!」

本当かどうか確かめる必要がある。

「そうだな。」

どうやって確かめたものか。

「…閃いた!おい!誰でもいいから、有名人を思い浮かべてみてくれ!」

私はアンミカを思い浮かべた。

「おお!いけるぞ!でも何で!まあいいわ!ここにアンミカを呼べるか?」

アンミカが、男のいる部屋に入ってきた。

「おし!あっ!」

『あっおはようござまいます〜。どないしはったんですか?』

「あっ、どうも。すいません、へへ、おーい、成功だ!」

どうやら、アンミカと男は出会ったらしい。

アンミカは白い歯を見せて、笑顔だ。



3

『…事情は大体理解しましたけど、何でよりによって私なん』

「あっ、スキップするな!」


違う。これは私の意思でやったのではない。

おそらく、一区切り"ついて"しまったのだろう。

チャプターが進んでしまったのはそのせいだ。


どうやら、この物語自体が彼を物語の中に閉じ込めようとしているのだろう。私が考えた以外

の展開も今後、起きてしまうかもしれない。


「いらんこと言うな!」

『いらん事言わんといて!そんなん考えたら私ら帰られへん可能性が高まるやろ!』


ああ、そのような事はない。

やはり私の考え通りに物語は進むようだ。


「そうだ!んでさっき、アンミカさんが入ってきたってことは、俺は部屋にいるんだよな?」


確かに、私はアンミカが扉を開けて、部屋の中に入るイメージをした。

「さっきまで、暗闇の中に豆電球の灯りが一つだけあって、そこの下にいたんだけどよ、アンタが部屋をイメージしたとたんに、俺のいた空間が部屋に変わったんだ。」

そうなのか。彼のいる世界も私の想像がないと、創造されないようだ。


『ほなそのドアから出たらええやん』

「いやアンミカさん、違うんすよ。部屋から出たところで物語からは出られないんじゃないんすかね。余計な展開をつくって、命を危険にさらさない為にも、部屋からは出ないほうがいいんじゃないすかね」

『…分からへんやん』


そうだ。やってみないと何事も分からない。

アンミカと男は、部屋の扉を開いて、外へ飛び出した。

「おい!身体が勝手に…」

『あっ、これやめてな。強制移動やわ。めっちゃ嫌やわ』


しまった。

彼らに移動を強制させてしまった。

こんな力だとは思っていなかった。今後は気をつけて使う必要がある。


「ええよ別に」

『うん気にせんといて。会話の自由は少なくともあるんやし』


2人とも優しい。

さて、2人がこの世界から脱出できるように、この先の展開を考えなければ。


部屋を飛び出すと、辺りは"黒々とした"木々に覆われたジャングルが広がる。

どうやらこの先に、小説の出口となる空間が広がっているようだ。


「おお、そんな強引でいいのかよ、ありがてぇ。」

『強引にGoing! やね』


うまい。

アンミカと男は、"黒々とした"木々をかき分けてジャングルを進んでいく。


ようやく明かりが見えてきた。夕焼けか朝焼けか分からないが、オレンジ色の日が木陰から差していた。


「アンミカさん、この木なんか変じゃないですか?」

『そやんね、あんま言いたないけど、匂いもキツいし、木っぽくないよね』


あれ?おかしい。

私は''黒々とした"なんて思っていない。


「え?どういう事だよ!」


分からない。この小説が意思を持って私の考えに書き足しているように感じる。


「それやべえんじゃねえの?」

『あっ、もうすぐこのジャングル地帯をを抜けられそうやで!助かった〜私この後仕事あんねん』


気をつけて。私の意思ではない設定が盛り込まれているかもしれない。


「見えた…!出口だ…!え…なんだ…?おい、地平線が縦になってるぞ!」


そんな。

私はジャングルの出口の先に、小説の世界から脱出する扉が佇んでいる想像をしていたのに。

地平線が90度ずれている想像はしていない。

やはりおかしい。


「これやばいんじゃないですかね、アンミカさん」

『そやんね。右側にはさらに深いジャングルがあって、左側には傾斜の激しい丘?みたいなんがいくつかあるわ』


今の太陽の位置は?


「俺たちが向いている方向を前とするなら、真右にあるな。影も左に向かって落ちているが、影の長さが異常なくらい長いよ。」


そんな…

どこかに扉は?


「扉は見当たらないな。前方は下り坂っぽくなってて、遠くは見えない。」


上空に登って確認する必要がありそうだ。

私はヘリコプターを思い浮かべた。


「うお、ヘリコプターが出てきたぞ。」

『流石やね』


よし。それに乗って、上空から今いる地形を確認しよう。


「でも、誰が操縦するんだよ」

『言うてなかったっけ、私操縦出来んねん』


さすがはアンミカさんだ。


ヘリコプターに乗り込み、上空へと向かって進む。

上空2000m付近に到着した。


「…マジかよ」

『こんな事ありえへんよ』


どうしたのだろう。

私の想像していた世界ではないから、説明が欲しい。


「なんて言うのかな…説明めっちゃムズイんだけどさ。俺らが抜けたジャングルあんじゃん?」


うん。


「なんかあれ、めっちゃデカい人間の顔の、眉毛の部分だったらしいわ。」


どういう事だ。


「地平線が90度ズレているのも、俺らがでかい人間の顔に横向きに歩いていたからっぽい、ごめん説明が下手で。」


…まだあまり理解できない。


『私ら、馬鹿でかい藤岡弘、さんの顔面を探検してたみたいやわ!』


はい?


『ジャングルと思ってたのは、藤岡弘、の逞しい眉毛やったみたいやわ!』


つまり彼らは、藤岡弘、の顔面、眉毛辺りから脱出し、眉毛のジャングルを抜け、こめかみあたりからヘリコプターで飛び去ったようだ。


〝おい、お前〟


「はっ?!」

『藤岡さんの声や!』


大きい藤岡弘、が呼びかけているのだろうか。


〝いや、これを読んでいるお前〟


「おい、お前の事ちゃうか!」


…何でしょうか。


〝ちょっと助けてくれないか〟


えっ?


〝集中して本読んでたら、気づいたら本の中なんだよ〟













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