第6話 黒ギャル×古典落語

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ええ〜、今晩は。

今宵は古典落語のひとつ、有名なお噺を披露させていただきたいと思います。

ただ会場にいらっしゃるお客さまを見ますところ、ほとんどの方が若い女性ばかりでございます。

それから、黒ギャル、というんでしょうか。

合っていますか?大丈夫ね。

そのような方たちで8割がた埋め尽くされているところを見ますに、これは私がそのまま落語を披露したところで、恐らく、意味不過ぎるんですけど、マジ卍と野次を飛ばされるのが目に見えてございます。

ですから私はラスタ原宿で落語なんぞやるもんじゃあない、とマネイジャーに言ったんですがねえ、なにやら世間様は落語ブームという事で、こういった普段やらないような所で落語をやる、そうして普段寄席にいらっしゃらない若いお客様にも、落語っていうのは面白いもんなんだよ、という風に知って頂こうじゃないかという事で、少し噺をアレンジして、現代の黒ギャルの皆様にも分かりやすいように、お噺を披露致しますので、今回しばらくお付き合いください。

みなさんは落語に対して、どんなイメージがあるでしょうか。

落語、知ってるよ〜という人。

ハイ、下ろして下さい。

実際に、見た事があるよ〜という人。

ハイ、一人くらいは手をあげましょうよ。

嘘でもいいんですから。へへへ。

まあ初めての方が殆どのようですので、簡単にご説明をいたします。

まあ落語を一言で表すならば、爺ちゃんが着物を着てべちゃべちゃ昔の話を喋るだけでございます。

これが、若い方には一番分かりやすい説明の仕方だと昨日、弟子たちに教わりましてね。

噺家なんてのは所詮その程度の仕事なのかと大変にショックで、家で深酒をあおって一人で泣きまして、泣いて泣いて泣き潰れましてね。

しかし泣いてる間に、やっぱり私はべちゃべちゃ喋るだけの爺ちゃんなんだと実感いたしました。

なぜかと言いますとね、私ももう歳なもんで、最初の一粒の後の涙が全く出てこないもんでございます。

涙も流す体力もない自分を鏡で見ますとすっと納得がいったという、こういう訳でございまして。

ですから今日皆様は、今日私のお噺を聞いた後、周りのお友達やプリ友なんかにですね、こう伝えて下さい。

着物を着た爺ちゃんのべちゃべちゃ昔話が大変に面白かったと。

そうすれば見世物感覚でお客様が大勢お越しになるはずですからね。

ええ〜そのためにも本日は頑張らないといけませんねぇ。

噺家 金田丸三枝男(きんたまるみえお)と申します、どうぞ宜しく。


黒ギャルたち「名前エロくね?」



2


金田丸三枝男は楽屋で一人うなだれていた。

出演者用出入り口前には、三枝男の弟子がタオル片手に気まずそうに俯いている。

なぜなら本日の客である黒ギャル達が自由過ぎたのだ。

師匠である三枝男の全力の名演技にも関わらず、客席からは時折携帯のフラッシュが光り、三枝男のリアクションに対しても『ありえな〜い』『ウソっぽ〜い』『名前がエロ〜い』と各々大声で反応を示し、三枝男の最大の持ちネタである芝浜が、黒ギャル達に見事に打ち砕かれる様子を袖から見てしまっていた。

三枝男は弟子に向かってボソリと一言だけ呟く。

「…名前はしょうがなくない?」


すっかり弱気になって窓の外を眺める三枝男は、黒ギャル達に文字通り真っ白にされたのだった。

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