第18話 こども総理大臣

1

西暦25XX年、日本に革命が起こった。

自分たちの利益を優先し、国民の意思を無視し続けた政治家たちは、もはや政治について考えることも放棄してしまった。

ある日、そんな彼らに嫌気がさした日本国民の総意によって、7歳のケンタ君が日本の総理大臣に任命されてしまった。なぜそうなったかは誰も分からないが、誰もが「ケンタしかいない!」と思ってしまったらしい。


「ケンタ君、さっそく今日の会議が…」秘書が言うと、ケンタは机の上に乗り、突然叫んだ。


「爽健美茶に、ふりがなを振る!」


大臣たちはざわついたが、なぜか全員が「さすがケンタ総理!」と拍手喝采。

すると会議室に、いきなり渡辺謙が乱入。

渡辺謙は爽健美茶のペットボトルを片手に、「小さすぎて読めなぁぁああい!!」と大激怒。

静まり返る大臣たちを横目に、渡辺謙はハズキルーペをかけた。

「でも〜ハズキルーペをかけると〜」

「世界が変わるぅ〜!!」


ざわつく議員たちを横目に、改めて爽健美茶のペットボトルを見つめて、ハッとする渡辺謙。


なんとそこには、「爽健美茶」ではなく、

「立入禁止」と書いてあったのだ。


信じられないと言った表情でうずくまる渡辺謙の肩を抱き、ケンタ総理が一言告げた。


「出ていきなさい」

そして次の日、正式に国会で決定。


かくして爽健美茶は、爽健美茶そうけんびちゃとなった。


これは、そんなちょっと先の未来の話である。


2

この日は、スペインのペドロ首相との会合が予定されていた。

迎賓館でペドロ首相を待つケンタの様子は落ち着かない。

「ケンタ君、外交の場ではですね…」と外務大臣が言いかけたが、ケンタは急に興味を失った様子で、カバンからドッジボールを取り出した。


「外交より、ドッジボールしようぜ!」とケンタが叫ぶと、厚生労働大臣が赤いボタンを押す。

するとなぜか国会議事堂が大きな運動場に変わり、ペドロ首相とその部下たちが真剣な顔でドッジボールに参加し始めた。


「負けるな、スペイン代表!」

「そこだ!無敵艦隊を倒すんだ!」

ペドロ首相の投げたボールがケンタ総理の手に当たり、ケンタ、アウト!

ケンタは泣きながら割り箸に「全国制覇」と書き込んで、その割り箸でそうめんを食べる。


それを見ていた外務大臣が突然、ドッジボールを奪い取り、飛行機に乗ってアメリカへ。

NBAのコートでダンクシュートを決め、官房長官はスリーポイントシュートを沈めた。

「静かにしろい…」

「諦めたら、そこで試合終了ですよ」

ペドロ首相たちは一斉に「これぞ日本流のもてなしだ!」と歓声をあげた。


この時の外務大臣が、のちの八村塁であった。

官房長官は、全然関係のないガソリンスタンドの店長だった。



3

「ケンタ君、どうやら今年度の予算案の調整が必要です…」

と財務大臣が言うと、ケンタは

「今年の国家予算全部つかって、レゴのセット買おうぜ!」

と、大量のレゴブロックを注文する。

国会議事堂が取り壊され、さっそくレゴブロックで新しい国会づくりに取り掛かり始めた。

大臣たちは真面目な顔で「これがケンタ流の国づくりか…」とレゴを組み立て始めた。

が、最終的にピーチ城のようになってしまった。

ケンタと任天堂の闘いはつづく。




4

「えー!!クラスで遠足行かねえのかよ!」

その一言で決まった、内閣のみんなでハワイ訪問の前日、ケンタ総理は意気揚々と準備に取りかかっていた。リュックに駄菓子を詰め、俊足を履いて出発準備は万端。大臣たちもサングラスとアロハシャツを持参して待機していた。


しかし、出発の日、専用機に乗り込む直前、ケンタ総理が突然立ち上がり、力強く叫んだ。


「よーし決めた!ぼく、ハワイに行かない!」


その瞬間、国会に突如として大嵐が吹き荒れ、


「行かないんかーい!!!」


と、まさかの台風8号からのツッコミ。

怒った台風8号は、空から巨大なボタンを降らせてきた。何が起こったのか分からず混乱する議員たち。ケンタ総理は真剣な表情でそのボタンを見つめた後、にんまりと笑う。


「このボタンを押したら、埼玉が千葉になるんだってさ!」


ケンタが押そうとした瞬間、どこからともなく現れたピエロの大臣が慌てて叫んだ。「総理、それはカレーライスが空から降ってくるボタンです!」


ケンタが「そうなんだ!」と言った次の瞬間、天井から大量のカレーライスがドサドサと降り注ぐ。カレーまみれの議員たちは、意味もなく踊りだし、「ガンジスの香り!ガンジスの香り!」と阿鼻叫喚。

ケンタは「カレーと言ったらバングラデシュだよね」と、バングラデシュとの国交を樹立。


すると今度は、何もない空間から突如、巨大な天狗が現れて議員たちを睨みつけた。天狗の背中には「U-18日本代表天狗」のタスキが掛けられている。ケンタ総理は何も臆することなく天狗に向かって一歩前進し、大きな声で言った。


「おまえは!」


天狗は不敵な笑みを浮かべながら、

「ふっふっふっ…ケンタ、ひさしぶりだな」


大臣が尋ねた。

「ケッ…ケンタ総理!あの者は一体?!」


「この前オレが教科書に落書きした森鴎外だ!」


「何じゃそりゃー!!!!」


その一言でまたもや全員が転倒し、なぜか全員、謎のワープ装置によってウォータースライダーの途中に投げ出された。


「ぎゃああああああああああー」

誰も意味が分からないが、全員が流されるがまま、日本海へと旅立ってゆく。


こうやって流された国会議員は、黒潮を渡って、オホーツク海で産卵し、新たに産まれた国会議員たちは春にまた戻ってきて、水揚げされる。


これがケンタの行った、大規模な政治改革だった。

こうして、日本初の「こども総理大臣」ケンタ君の時代が、始まったのだった。

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