主君への忠誠は男の専売特許じゃない!

異世界ファンタジー、あるいは歴史小説などにおいて、ある葛藤があると思います。
あまりにその世界観や時代観に入り込みすぎると、現代人である読者が共感しにくい。
かといって、過度に現代的になると、異世界である意味、歴史を舞台とする意味が無くなってしまいます。

私が涼国賢妃伝、そして烏翠シリーズが好きなのは、そのバランスの取り方が絶妙だからです。
中国史の知識、あるいは滲み出る教養を感じさせる文体、これは中国史小説と言っても通用する水準だと思います。

しかし、中国史、に限らず、後宮を扱った創作(小説もドラマも含む)に対する私なりの不満は、
「後宮の女は男の寵愛を巡って争うもの」というステレオタイプです。
勿論、そういう要素には面白さがありますし、後宮ものからそれは外せませんが、その面が過度に強調され、それ以外の要素が軽視されているということです。
それ以外の要素というのは、本作の鈴玉に体現されるような、「主君(女性)への忠誠」「友人(女性)との友情、葛藤」などです。
これらは多くの歴史小説や歴史風ファンタジーにおいて、「男の世界」として描かれてきたものです。

しかし、リアルな問題として、女性の間で「忠誠」や「友情」というのは存在しないのでしょうか。
「友情」は存在する、と思う人が殆どでしょう。
では、歴史的な舞台において、「女性の女性への忠誠」というのはあり得るのでしょうか?
私は現代人ですから、現代人の目として、「存在し得る」と思います。
それはフェミニズムやジェンダー論とは関係なく、現代社会で働く女性として肌感覚で感じたものです。

実際に(歴史的に)、後宮という社会で女性がこのような心性を持つに至ったかはわかりません。
しかし、鈴玉や王妃さまを始めとする、ここに登場する素敵な女性達の忠誠や友情は、現代人として、深く共感できます。

ファンタジーだけどリアル。
歴史風だけど現代的。

一度読んでももう一度読み直したくなる作品です。

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