堅苦しくない、痛快なストーリー

中華風後宮ものというのは陰のあるところが面白いところなのかなあと漠然と思っていた。
なので美貌の少女、母は死亡とくると、やっぱりそうか薄幸の子が悲惨な目に合う話かと考えていたんだが、なんか読みだしてみたらそうではない。
この先入観がくるっとひっくり返って、あれあれどうなるのかと思ったときにはもう引き込まれていた。

とにかく鈴玉のキャラクターがいい。失敗しながらも前向きで好奇心が強く、話をドライブしていくタイプのヒロインだ。
最近の話は傍観者的な立ち位置の主人公が多いが、これは主人公の自我が明確で、そして成長していく話である。

物語の前半部分は、そのかなりの部分がいわくつきの「薄い本」についてのストーリーでしめられている。
その本、その内容も後々いろいろと展開に響いていくのだが、ここで描かれるのは「ルール上はダメ。事実上容認」という文化への挑戦だ。
こういうイジメやハブのために利用されがちな形骸化したルールに対して鈴玉が挑み、乗り越えていくところが面白い。
周囲の仲間や悪役、意外な接点が出てくる人々などとのかかわりを経て、堅苦しくなく、自然に展開していく。

そしてこのステージが過ぎた次のあたりに入ると、もう鈴玉がいっぱしになって自分でどんどん話を進めていく。
そこからの怒涛の展開もまた見事なんだが、後半になると悲劇や別離もクローズアップされていき、さらに重層的な伏線回収が始まっていくのがいい。

中編連作のような感じかと思っていたが、これは最後まで読み切ってこその作品だ。
いったん手に取ったら、是非全部通しで読んでほしいと思う。

舞台や登場人物の造形はいわゆる中国的な作品に準じているのだろうが、それほど難解ではい。
本作はキャラクターと構成で読ませる純粋なドラマだ。

痛快で軽快で、読んでよかった。
このジャンルが好きな人にも、そうでない人にも勧められると思う。

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