ふてぶてしくも逞しく、美貌の問題児は後宮仕えに奔走する!

美貌の少女は貴族とは名ばかりの貧しい家に生まれ、
病を得た母を医者に診せることもできずに亡くした。
斯くして少女には後宮に入り、女官となる道を選ぶ。
父では成し得ない家門の再興を己が成さんと志して。

――という筋書きだけ見れば、儚く健気なヒロインが
数々のいじめにも耐え抜きながらやがて幸せになる、
なんていう王道のおとぎ話が思い描かれるのだが。
彼女、大人しく枠に嵌まるタマではない。全く以て。

ヒロインの鈴玉は、美貌と面の皮の厚さが取り柄の、
落第すれすれ問題児として後宮に名を馳せてしまう。
ひどい言われように腹を立てこそすれ、そこは鈴玉、
傷付くでも落ち込むでもなく、逞しく我が道を行く。

中国史に造詣の深い筆者の後宮ロマンス作品群の一。
確かな知識をベースとした舞台設定が成されており、
建造物や服飾、庭園の様子、女官や宦官の日常など、
さりげないところまで気配りが行き届き、鮮やかだ。

同じ「烏翠国物語」シリーズの他作品と比較すると、
鈴玉の性格のためもあり、本作はライトでキュート。
ころころと表情を変える登場人物達がとても身近で、
読者は先へ先へとページを繰る手が止まらなくなる。

友でもライバルでも同僚でもある個性的な女官たち、
後宮で人気の「薄い本」を書くイケメン宦官コンビ、
路傍の花のように慎ましい王妃、野心をいだく側室、
取り入る相手を見定める佞臣勢、そして、若き国王。

鈴玉はさまざまな人たちの中で怒ったりふくれたり
サボったり頑張ったりしながら、少しずつ成長する。
今後どんな事件が起こり、どんな未来が訪れるのか。
型破りの鈴玉だから、楽しませてくれるに違いない。

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