※このレビューは本作の特定の一面を推す偏った内容です。

 中華後宮ものはあまり読んでいないのですが、初めは怠惰で横柄、型破りな小娘が、王妃の側仕えに大抜擢され――というストーリーは中々王道のものかと思います。本作はそれを、確かな知識と軽やかな筆致、生き生きとした登場人物で彩り、綿密に構成された上質な作品。

 とはいえ、本作の概要については他のお方のレビューにゆずり、私はこの作品の推しポイントについて語らせて頂きます。

 本作には湯秋烟、謝朗朗という若き「宦官」が登場します。後宮物にはつきもののあれですね、彼ら以外にもモブ宦官とかいます。この二人はいわゆる〝官能小説〟を合作で書いて発行している剛の者。
 本来、後宮にこの手のモノを持ち込むことは禁止されているのですが、みんな公然の秘密としてこっそり回し読みして人気を博しているのでした。
 官能小説とは言いますが、時代背景が時代背景なので、作中に抜粋されてくる本文も「えっちなことしているのは分かるけど……」みたいな、まあかなり婉曲な表現なのでご安心。

 宦官コンビが書くこの小説は、とても重い覚悟を持って書かれたものでした。彼らがなぜそれを始めようと思い至ったのか、そこは作中では書かれておりませんが、私もカクヨムで創作する身、書かずにはいられない気持ちというものがあったのでしょう。
 やがて二人の小説がある事件につながり……作中の様々な場面で関わってきます。常に影から影響を及ぼす存在感は、「作中作」のお手本のような使い方ではないでしょうか。

 様々な人が彼らの作品からそれぞれ違うものを読み取り、現実の出来事を反映して誌面は移ろい、秋烟と朗朗は体を張って創作活動を行った……それら一連の出来事に、すごく勇気をもらいました。
「お話」を書くのも読むのも大きな代償を覚悟しなければならない世界で、二人の宦官はこんなにがんばっていて。一方で読者たる私たちは、書くことも読むことも誰に抑えつけられることもない。それは、なんて幸福なことでしょう。

 本作の主人公・鈴玉は初期からどんどん成長し、その才覚や心性を発揮していきます。上記の二人の宦官のエピソードに加え、彼女の真っ直ぐな活躍もまた、みずみずしく、眩しく、とても元気が出てきます。
 他のキャラクターももう素敵で、憎たらしい宿敵の彼も、最後の最後までふてぶてしい態度を取りながら、言葉の端々に「彼にも彼の思いがあるのだな」と感じられ、誰も彼も「生きてる」と思わせられました。

 この世界観でのお話は他にもあるとのことですので、いつになるかは分かりませんが、一つ一つその世界を探検させていただこうと思います。
 素敵な物語を、ありがとうございました!

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