2-2 同居していてわかったいくつかのこと

 同居していてわかったいくつかのこと。

 ひとつ、精霊エレメンタルはよく食う。

「もぐ、むぐ、なんか顔についてる、おにーちゃん?」

「その身体のどこにそんな量の食事が入ってるんだろうね」

「乙女の神秘ってやつね」

 しれっと言いながら、人形用の食器で食事をつづけていく。

「はふはふはふ、ところでちょっとスープは冷まし足りませんでしたか? ナツカさま」

「ふーふーすればいけるからいいよーありがとにゃー、うめえー」

 温度も味も人間と同様に感じているが、かのじょたちはエネルギーそのものを摂取しているというより、食事という概念をとりこんでいるようなふしがある。魔法には通常の物質収支が当てはまらないが、ここまで人間っぽくては、それを忘れてしまう。


 もっとも、こいつらを人間らしくふるまわせているのは、ぼくの意識らしいというのが、もうひとつ。


 あたりまえだが、の精霊がどこからともなく姿を現してからこっち数箇月を経て、ぼくの生活は劇的に変化することになった。ところがそれは、ぼくがもともと持っている思念や欲求に精霊たちが反応しているだけのことらしい。

 そう思ってこいつらを見ていると、いろいろ考えさせられる……。

 まず犬メイド、めぐ。

「きょうは新しいソースを試してみたのですが、お口に合いますかどうか」

「うまいよ。ありがと」

 かのじょのつくる食事はたしかに美味だ。どこから仕入れてきたのか、長いことインスタントに横着してきたぼくの食生活をとり戻してくれるかのようにかいがいしい。メイド服はだてではなかった。

 つぎに、うさぎ妹、みみり。

「『ギルド』の窓口って朝10時からでいいんだよね? 書類作成にかかるのがだいたい15分としてー」

「お役所じゃないんだから……メールは24時間受けつけているから、食べしだい入れておくけど」

 かのじょは5分刻みで時間管理をするのが好きらしい。どこかの童話のうさぎは懐中時計を手に遅刻を気にしているイメージだが、この子は心にかなり正確な時計を持っているもよう。

 そして――

「にゃから」

 押しかけ女房きどりの猫。

「だから、食べながら仕事の話やめてってば」

 こいつの厚かましさとなにも考えてなさは深淵に近い。正直、ぼくにはその深淵を覗きこむ気力すら湧かない。ぼくの心にこんな存在を望む一面があったとは考えづらいし、耐えがたい。

 各自の衣装をコスプレ風にしたのも、こいつのアイディアだ。

「木を隠すには森、獣を隠すならコスプレに決まってるでしょ」

 とコメントしたことを、よくおぼえている。

 たしかに隠す必要はあるだろう。精霊とはいえ、獣性を持つ魔法生物はモンスターとして狩猟の対象になる危険があるからだ。

 でもぜったい趣味だ。

 さいごのひとり――ここには来ないあの変わりものは、あとでどうせ紹介することになるだろう。


 いま気にすべきは、やつらのことだ。

 錠前師団。

 6人しかいないくせして師団もないだろうと思うのだが、錠前師の団、ということなんだろうか。

 魔法使いギルドが持ってきた仕事のなかで、いまのところ最大の難敵。みずからを暴力団みたいなものと自嘲し、さまざまな魔法犯罪に加担している男たち。

 かれらが用心棒として連れてきた、魔法少女を倒さなくてはならない。


「もうちょっと待ってね」

 そして猫が食べ終わるのが遅い。

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