4-7 魔法少女を名乗る意味
魔法少女を名乗る意味。
これまでも、あえてそう自称する人間には会ったことがあるが、その理由はおぼろげに理解できる。
人間が魔法を使うことはおそろしい。わからないものに遭遇するのは怖いことだからだ。しかし、思春期の女性という存在が魔法というゲタを履いて世間にアクセスするとき、その少女性は特別な意味を持つ。ひとびとは好悪かかわらずその姿に目を向けざるをえない。イコン、アイドルと呼んでもいい。
その力をあえて誇示するとき、かのじょたちは魔法使いとも魔女とも名乗れない。
魔法少女と形容するしかない、瞬時に輝き咲いて散る、花火のごとき儚く鮮烈な存在が、そこに立ち現れるのだ。
それこそ――わずかな時間でいいのであれば、世界を敵にしてさえも戦えるほどの存在が。
「傷つけたよ」
肩に腰かけて、和装の猫耳精霊はもういちど言った。
おれは鼻を鳴らした。
「悪かったさ。そりゃ傷ついたろう」
だが、子どものごきげんをとる余裕はなかったから、あやまって終わらせるだけにはいかない。そのあとも、言わなければならなかった。
力の強い弱いにかかわらず、おれだけが、なにか言って味方してやらなければならないやつがここにいるからだ。
おれには力はないかもしれないが、ことばはある。
そして、ことばひとつがQを救うかもしれないし、護るかもしれないし、責めるかもしれないし、なにも及ぼさないかもしれないのだ。
なぜおれなのか? 意味や必然を求めていても始まらない。
ただ、いまここでそれを口にするのは、おれなのだ。
「おれだっておまえたちがなんの苦労もなくヒーローしてるなんて思ったことは、いちどだってない。
力とチャンスはだれにでも平等にもたらされるもんじゃない。Qだって望んでこんな境遇にいるわけじゃない。
なるほど、おまえたちはおれのあずかり知らぬ血のにじむような努力の
『ひとの身でありながら、地道に地獄をくぐって生きてきたじぶんにだけは、だれかの持つ力が人類の手にあまるか品定めして、排除するかどうか決める権利があるのだ』
ってな。
なるほど世界の主人公さまには、その権利があるだろうさ。おれごときザコのお伺いなんかいちいち立てる必要はない。ぞんぶんにその権利を行使すればいいんだ」
肩にいた精霊は、ただ無言でおれの肩から降り、どこかへ走り去った。
目のまえに立つ、英雄さんと呼ばれたがらない英雄も、顔を伏せたまま、なにもしようとしない。
「おれの言いたいことはそれだけだ。おれがおまえの言いぶんを死んでも受け容れられないのも、それだけが理由だ」
「だっ……からって……!」
人間の髪が感情で逆だつのを初めて見た気がする。おそらく錯覚だったとは思うが。
だからって、はこちらのセリフだ。
おまえがおれやQを認められないのとおなじで、おれだって殺されてもおまえのやりようを認めることはできない。
甘んじて煮るなり焼くなり、なんてことは言いやしない。
おれもその姿を目にするのは初めてだが、微力のかぎりを尽くして、おまえの悲憤を迎撃しよう。
細い手足はさらに細く短く、かつてそうだったであろう容姿へ変換されていく。やつにとってはおそらく、しなやかに鍛えられた肉体へ成長したまっとうな現在こそが「擬態」なんだろう。
いまでもやつの中身、『ほんとうの姿』は、かつて天使に襲われ家族を閃光に灼かれ、ひとりで泣いている無力な少女のままなのだ。
だからこそ、悪魔と契ることができた。
「ひとりの魔法少女でしか、ないんだよ、ぼくだって」
ほっそりした小柄な体躯に、羽細工を複雑に織りあわせたような翠の優美な戦闘装束。
やつの分け身である精霊とおなじほどの年ごろ、二次性徴期特有のアンバランスな精神と肉体に戻り、それゆえに強力な魔法の力を宿した、彼刀ゆゆき固有の最強の姿が、そこにあった。
いまこの瞬間、こいつの眼中にQの姿は入っていない。ロードシップにだって、Qでなくおれへ助太刀を入れる義理はない。
うぬぼれよう。
おれと水入らずで戦うためだけに、やつは魔法少女へと変身してくれた。
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