第3章 現在のつづき
3-1 愛の話をつづけよう
愛の話をつづけよう。グラスに波打つ酒のむこうで、きみはあいかわらず待ってくれている。
「あんまり待ってないよ。さっさと払え」
「ママさん……」
それにしても、将来の展望ってものがない。おれは屈辱にまみれた結果、なにかを誓ったんじゃなかったのか。
将来。
いまがおれの行きついた『将来』なんだよなあ。
なんか気持ちが沈んできたので、ごまかすようにして酒を飲みほした。貴重なサービスの1杯がおれの胃袋へ流れこんでいく。
「それで、どうなんだい団員さん、魔法少女ちゃんとの甘い生活ってやつは」
「団員さんはやめてくれ……」
「否定するのそっち」
手伝いでウエイトレスをしているママの娘さんが、口許をトレイで隠すようにしてドン引きしていた。
なにかを、とあいまいに語るのはよそう。
正直なところをいえば、おれは復讐を誓っていた。
先週のことだ。おれと仲間たち、そして魔法少女Qは、先週、カタナだかユウキだかいう強そうな名前の『英雄さん』に、そろって敗れ、お目こぼしにあずかった。
所属する団体はおれを除いて全員魔法使用不可能の身体にさせられ、潰走したのだ。
相手はひとりでありながら、複数の魔法生物を自在に使いこなし、自身にも得体の知れない力があった――Qは語らないが、かのじょを手ひどく傷めつけるほどの恐るべきパワーの持ちぬしだ。
おれたちは、まず、そいつに狙われている。
今週のことだ。おれと魔法少女Qは、天使、ロードシップと名乗るイケメンに、そろって敗れ、お目こぼしにあずかった。
天使。かつて人類を脅かした、超越種族。
神の真意はわからないが、すくなくともその威光を借りて猛威をふるった連中との戦いは、かつて神罰戦役と呼ばれた。人類は悪魔と契約し、どうにかこうにか対抗した。死闘のすえ、いまの社会はなんとか存続しているが、魔法によって人類は大きく変質してしまった。
世界のあちこちに爪痕は残り、天使もまだまだ健在だ。
それは、まあいい。よくないが、置いておこう。
ロードシップのだんなはQを天界だかに連れ戻そうとやってきたはずだったが、おれとの戦いのなかで奇妙な友情が芽生えたとかそういうことではなく、なんかQがおれになついてるらしいのでしばらく泳がせておくことにしたらしい。
つまり、完全に見逃してくれただけだった。試合内容としては完全敗北といっていい。
敗けつづけだった。
敗けすぎだった。
敗けぐせがついている。
しかもお情けにすがりすぎている。
腹が立った。その甘さが命とりだとか言ってやりたかった。
「修行……修行の旅か」
グラスのなかで氷がからからと鳴り、おれの小声はかき消された。
ありがたかった。恥ずかしいから。
「ん、なんつったんだい」
「ママ、しばらく来れないかもしれねえ」
「稼いでくるのかい」
「いや――」
もう氷しか残っていないグラスをふたたび目の高さまで持ちあげた。
このグラスは、まるでいまのおれだ。
もう飲む酒なんて残っちゃいないのに、氷の冷たさだけが、まだそこにある。
おれは言った。
「一銭にもならないし、もしかしたら生きて帰ってこられないかもしれんが、ひさしぶりに
「一銭にもならないのかい……」
「すまない、ママ。男にはやらなくちゃならないときがあってね」
「そのときってのはなにかい。残ったつけを支払ったあとじゃだめなのかい」
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