39歳バツイチ子持ち、さえないおじさんの物語が読む人の心をゆさぶる

何といってもこのタイトルですから、さえないおじさんが女性たちに振りまわされる、という物語を想像してしまいますが、まあ実際のところ、その通りです。本当に。
けれども、主人公の野中さんが女性たちに振りまわされる様子を描いた軽妙な筆致でニヨニヨしているうちに、いつしか姿勢をただして夢中でページをめくり、そして最後のエピソードを読みおえたとき、重厚な、けれども光にみちた読後感につつまれるはずです。

別れた奥さんに引き取られたツンケン娘の三和さん、少年漫画にでてくるような友達という関係のエニシさん、彼とおなじ陸軍少年学校に所属する凛々しい将校伊原さん、学校のカウンセラーの笠原先生、という女性たちにくわえて、上官を上官とも思っていないような態度の部下の頭山さんや、真面目でくちうるさい生徒の長崎さんと、出世とは無縁の三十九歳のさえないおじさんの包囲網を形づくる、ひと癖もふた癖もある登場人物たちが魅力的です。
そして何より、そんな四面楚歌のなかで登場人物たちに翻弄されるうちに、彼女たちの過去の傷をしって不器用に寄りそい、自身のトラウマとも向き合って、ひとつの決意を胸に行動をおこす野中さんの不器用な生き方や人柄に、胸をあつく揺さぶられます。

39歳バツイチ子持ち、さえないおじさんをめぐる物語はいかがでしょうか。自信をもってお勧めできる作品です。

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