中年の枯れた魅力にあふれる素敵な主人公

本作の作者によるキャッチコピーは「翻弄され、取り乱しても、前に進む、そんなダメお父さんの物語」。

実に秀逸である。この題名とキャッチだけで作品の内容を余すことなく紹介できており、ターゲットの読者を狙い撃ちすることに大成功している。
まず最初に人を惹きつけることに成功すれば感想を書いてくれる読者が現れたり、ランキングにも入るようなことにもなって、ターゲット外の読者も興味を持って手に取ってくれるかもしれない。

というわけでキャッチコピーはやはり大事なのだが、本作で優れているのは何もタイトルやキャッチだけではない。

軍隊に勤務しバツイチの一人暮らしをしている野中博三。
そんな彼の下に別居していた娘が転がり込むところから物語は始まる。
冷たい態度を取る娘となんとか距離を縮めようとする一方では、職場ではなぜか同僚の女性から好意を寄せられたり、逆に煽られたりする日々。
このような女性陣に振り回される暮らしの中での博三の態度が実にいいのだ。
内心では心配したり、取り乱したりしながらも、そうした感情を決して表に出さず、のらりくらりと人間関係を何とか乗り越えていく。
決して若々しくもなければ、派手でもないのに、何とも言えない中年の枯れた魅力にあふれる素敵な主人公に仕上がっている。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)

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