アンバランスな組み合わせに躊躇することなかれ、39歳という年齢は飾りです。中身は誰でも共感できる、そこら辺にいる男子高校生と変わらない心の持ち主なんです!
最後まで拝読してすごいと感じたのは、物語を構成してる要素がすべてなんちゃって追加されているエッセンスではなく、すべてがしっかりと生きていたということ。
全体的な雰囲気としては主人公、野中の叱ろうとするけど叱り切れず、叱り切れないことを他の人に叱られるという、なんともぐんにゃりした感じ。ラブコメ特有の優柔不断でイライラする、みたいなことはあまりなくスッキリ読めるのもポイントです。なぜかは読まないと説明しづらい部分ではありますが!
個人的にはラブコメ好きな方に”なんとなく”取っていただきたいです。なかなかピリッとした体験ができるかと思います。
何といってもこのタイトルですから、さえないおじさんが女性たちに振りまわされる、という物語を想像してしまいますが、まあ実際のところ、その通りです。本当に。
けれども、主人公の野中さんが女性たちに振りまわされる様子を描いた軽妙な筆致でニヨニヨしているうちに、いつしか姿勢をただして夢中でページをめくり、そして最後のエピソードを読みおえたとき、重厚な、けれども光にみちた読後感につつまれるはずです。
別れた奥さんに引き取られたツンケン娘の三和さん、少年漫画にでてくるような友達という関係のエニシさん、彼とおなじ陸軍少年学校に所属する凛々しい将校伊原さん、学校のカウンセラーの笠原先生、という女性たちにくわえて、上官を上官とも思っていないような態度の部下の頭山さんや、真面目でくちうるさい生徒の長崎さんと、出世とは無縁の三十九歳のさえないおじさんの包囲網を形づくる、ひと癖もふた癖もある登場人物たちが魅力的です。
そして何より、そんな四面楚歌のなかで登場人物たちに翻弄されるうちに、彼女たちの過去の傷をしって不器用に寄りそい、自身のトラウマとも向き合って、ひとつの決意を胸に行動をおこす野中さんの不器用な生き方や人柄に、胸をあつく揺さぶられます。
39歳バツイチ子持ち、さえないおじさんをめぐる物語はいかがでしょうか。自信をもってお勧めできる作品です。
本作の作者によるキャッチコピーは「翻弄され、取り乱しても、前に進む、そんなダメお父さんの物語」。
実に秀逸である。この題名とキャッチだけで作品の内容を余すことなく紹介できており、ターゲットの読者を狙い撃ちすることに大成功している。
まず最初に人を惹きつけることに成功すれば感想を書いてくれる読者が現れたり、ランキングにも入るようなことにもなって、ターゲット外の読者も興味を持って手に取ってくれるかもしれない。
というわけでキャッチコピーはやはり大事なのだが、本作で優れているのは何もタイトルやキャッチだけではない。
軍隊に勤務しバツイチの一人暮らしをしている野中博三。
そんな彼の下に別居していた娘が転がり込むところから物語は始まる。
冷たい態度を取る娘となんとか距離を縮めようとする一方では、職場ではなぜか同僚の女性から好意を寄せられたり、逆に煽られたりする日々。
このような女性陣に振り回される暮らしの中での博三の態度が実にいいのだ。
内心では心配したり、取り乱したりしながらも、そうした感情を決して表に出さず、のらりくらりと人間関係を何とか乗り越えていく。
決して若々しくもなければ、派手でもないのに、何とも言えない中年の枯れた魅力にあふれる素敵な主人公に仕上がっている。
(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)
かつての戦争で武功を挙げて英雄と呼ばれたものの、その経験からくるトラウマによって精神不安定となり、今や陸軍少年学校で教壇に立つ日々を送る、万年窓際大尉・野中博三。
39歳、バツイチ。
そんな彼の元に、別れた妻との間にもうけた娘が転がり込んでくるところから、物語は始まります。
やる気があるのかないのか、常にユルいペースで人と接する野中さんには、なぜか一癖も二癖もある女性たちが絡んできます。
「友達」として大人の関係を続けるエニシ。
直属の部下である伊原少尉。
カウンセラーの笠原先生。
生徒会に所属する学生、長崎。
そして娘の三和。
ハタから見たら非常に分かりやすい矢印なのに、百点満点の鈍感さでそれをスルーしちゃうのが野中さんのチャームポイント。
これは世に言う「ハーレムラブコメ」ジャンルのお話です。
その類のものでたまに見られるのが「なぜモテるのか理解できない主人公」ですが、この野中大尉に関しては全く違うと声を大にして言える。
とにかくキュートなのです。この冴えないおっさんが。
おっさん好きの私が自信を持って主張したい。この人がモテるのは自明の理である、と。
肩肘張らないユルさ。
普段はいい加減に見せていても、ここぞという時には決して崩れない信念。
踏み込み過ぎず、離れ過ぎず、人と接する時の絶妙な距離の取り方。
そうした態度の裏側にある、消すことのできない心の瑕疵。
格好付けないところが堪らなく格好いい、そんな大人の男性。
……むしろ私も煽りたい。
複雑に絡み合う人間関係、コミカルとシリアスをバランスよく行き来するストーリー展開。そして個性的な登場人物たちの魅力が素晴らしい、大人が楽しめるラブコメです。
おっさん好きの方には特におすすめしたい作品であります。