糸紡ぎの魔女

 魔女がはずみ車を回すと、見る間に灰色の糸が巻き取られた。糸をよく見れば、白と黒、さまざまな濃淡の灰色が混じり合っている。

 魔女の薄桃色の唇が囁くのは呪文か紡ぎ歌か。声が途切れる頃には、糸巻きには灰色の糸がこんもりと紡がれていた。


 人々は金銭、あるいは野菜や乳、燻製肉、魚の干物、反物や薪、めいめい手にしたものと引き換えに糸を受け取り、深々と頭を下げて帰路につくのだった。


 時折、鮮やかな模様入りの織物が持ち込まれる。魔女は頷き、月夜に燃す。


 魔女にできるのは灰色の糸を紡ぐことだけ。それを色づけ、織物として仕上げるのは故人の生きざまだ。残された者が抱く記憶だ。


 市井の人々の物語は夜に誘われ、天へと導かれる。



(299文字 お題「糸」)

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