十年目のハピネス

 商店街を抜けた先、クラシカルな佇まいの店舗が佐藤洋菓子店だ。

 今風のフォトジェニックな華やかさには欠けるが、口当たりの良いクリームと幸せを焼き上げたスポンジ、丁寧な仕事が売りの、俺のバイト先。


 着替えて手を洗うと、佐藤が厨房から手招いた。メッセージプレートを書いてくれと言う。


「もう十年だろ」

「だな」


 十年間、俺と佐藤はここでたくさんの誕生日を、記念日を祝った。地元の人たちの喜びを支えてきた。


「そろそろお前も祝ってやろうかなって」

「なに、肉? 寿司?」


 ちげーよ。エプロンに三つ折りの紙が押し込まれた。フルーツをカットする佐藤の頬が赤い。


 ドアベルが鳴って、フロアに回る。外はようやく春、自然と笑顔が浮かんだ。



(300字 お題「佐藤」)


※Twitter300字ss企画の「サトウとエンヤ」(https://kakuyomu.jp/works/1177354054883526233/episodes/1177354054883526243)に登場した二人です。

座敷童は今もいて、たぶんこの展開を待ち望んでいたんじゃないかなーとか。


(……というか、先週分とオチ同じですね。すいません……)

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