ようこそ、胡蝶宮へ

 ようこそ胡蝶宮へ。出迎えてくださったのはここの主、世では国母として知られる方だった。

「楽になさって。ここは後宮とは違いますからね」

 王の寵愛を受けながら、最も望まれていることを果たせず、後宮を追われた私に胡蝶様は優しかった。

 後宮の戦場のごとき生臭さとは無縁の、穏やかな日々が待っていた。姫たちは日々、読書や詩作、舞や器楽を楽しむ。

 私は花壇の手入れを教わった。花はすべて後宮で用いられる。花弁を湯に浮かべ、根はお茶に。種は焼き菓子に。


 やがて、涙にくれる姫がやってきた。胡蝶様が微笑む。

「琴の名手とのこと、すぐ使になりましょう」


 徒花の姫と嘲笑された傷もいつしか癒えた。

 私は今日も花を摘む。



(300字 お題「徒花」)

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