侵略者の月

 素のままの、飾り気のない爪を君は無慈悲に断ち落とす。ぱちん、ぱちん。左手に持った爪切りは迷いなく動く。

 白い部分のなくなった爪にやすりもかけず、僕の背中を引っかくのは復讐のつもりか。悲鳴、睦言、罵倒、嬌声、呪詛、何もかもを飲み込んで、ため息すらも漏らさずにいる君は、飲み込んだ言葉を糧に伸びる爪を淡々と切る。色をつけ、石を飾る長い爪はもう不要ですゆえ、と。

 君の全部、切り落とされた細い月のごとき爪までも余さず僕のもの。閉じ込めずとも踏みにじるは易い。見返りは庇護と援助、剣と盾だ。それから、愛とやらも。


 わが君、と抑揚なく君が頭を垂れる。月を手中にしたにも劣らぬ興奮と悦びに、背の傷が引き攣れる。



(300字 お題「繊月」)

(こんな感じで、侵略から始まるラブロマンス国取りファンタジー(概念)を息抜きに書いてるので、まとまれば形にします……)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る