鬼は内
「今日は節分ですね」
釣り糸を垂れていた若君に囁くと、鼻息だけが返ってきた。
「福は内、鬼は外と炒り豆を撒いて、厄除けをするんだそうですよ」
ヒトと暮らした間に聞き覚えたことを語っても、鬼の一族の若君は眉ひとつ動かさない。釣り針の先に獲物がないから、多少は動揺しているのか。
ここは鬼の棲む島、天地を守る要石。ヒトどもが恐れる魑魅魍魎のたぐいとは違うから、鬼は外、などと呼ばわれる謂われはない。
知らず知らずのうちにこぼれた笑みを噛み殺す。
「福を呼ぶ鬼もいるだろうと、『鬼は内』と言うところもあるとか」
おにはうち。尖った耳元で囁くと、灰褐色の頬が色づいた。
帯に手を置くと、腹の子が動いた。ね、可愛い鬼だこと。
(300文字 お題「鬼」)
(「あめつちをまもるもの」の若と姫でお送りしました)
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