塩鯖

 色よく焼けた塩鯖の皮をはぎ、ぺろりと裏返すや、骨と身をより分ける。マナーなんぞ知るか。食べたいように食べればいい。


 淡々と作業を続ける彼の割り箸の先端は、精密機械みたいだった。表情も薄いから、ロボットかもしれないな、なんてたまに思う。

 完璧な無表情のまま左手で電卓を叩くしぐさや、箸使いの綺麗さ、そんなところに惹かれたのだった。人間味の薄いところに。


 塩鯖などに共感してしまうのは、期待からだろうか。あの手がシーツに横たわるわたしの服をはぎ、裏返し、細やかに身をまさぐることを夢想しているからか。


 骨が取り去られた塩鯖が、私の皿に運ばれてきた。そんなに物欲しそうだった?

 ――そうかもしれない。否定はしない。



(299文字 お題「魚の骨」)

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