誰がため

「ご褒美をあげようね」


 きれいな色紙に包まれたたくさんのお菓子を、ご主人は惜しげもなくくださる。前の家とは大違いだ。かびたパンひとかけを得るために、すべてを差し出さねばならなかったあの頃とは。

 温かなお風呂、破れていない服と靴、ふかふかの寝台。それに比べればお屋敷を清潔に保つことなんて何でもない。


「たくさん食べなさい、遠慮しないで」


 ご主人はあたしのためだけに炊事場に立ち、ご馳走を作る。だから、ここに来てずいぶん血色が良くなって、体もまるくなった。まだ足りないとご主人は仰るけれど。


「あたしはご主人さまに何もお返しできません」


 恐縮するたび、ご主人は星が鳴るように微笑む。


「きみこそが私のご褒美なんだよ」



(300文字 お題「ご褒美」)

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