指はまぼろしの眠りに就いて

 左の小指と薬指を欠いた三本指の人形師は、まるきりヒトと見分けがつかない人形をつくると有名だった。三指の御技、と賛辞が降り注ぐ。

 どんな粗悪な木材も、彼の手の中でみるみるうちに滑らかな肌の美少女や、猫のまなざしの美少年に生まれ変わり、愛を囀るのだった。


 人形師に妻子はない。人形しか愛さぬ夫に耐えかね、幼子を抱えた若妻が工房を去って久しく、以来、少女人形のアリスが彼の身の回りの世話を担っていた。



 人形師の左の二指は、そこにあった輝きとともにアリスの腹の中にある。処女作にして最高傑作の懇願に、はすすんで指を捧げてくれた。


 少女が抱くがらんどうの子宮で、愛の誓いとみどり児がねむる。

 産声は誰の耳にも届かない。



(300字 お題「薬指」)

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