16世紀のフィレンツェを舞台とした歴史色豊かなミステリ!

 16世紀のフィレンツェ。物語は何やら男が拷問にかけられているという物騒なシーンから始まります。

 主人公の彫金師ジャンニ親方は、口八丁手八丁な面倒くさがり。弟子からもダメ親方扱いされていますが、どっこい鋭い観察眼をもっていて、また意外と人情家でもあります。

 八人委員会の裁判官に選ばれた彼が、次々と起こる謎の殺人事件を追う、というのがメインストーリー。
 あちこちに散りばめられた伏線と怪しい人々、純粋なミステリとしても楽しめますが、この物語のもう一つの大きな魅力は描きこまれたディテールにあります。

 工房のごちゃごちゃしている様子から、証人の家や酒場を訪れた時の椅子の上の汚れや猥雑な雰囲気、さらにはジャンニ親方はいちいち下ネタを挟んでくるし、最後の方では隙あらば『性交体位素描集』を開こうとしています(資料ですよね!)

 フィクションでありながら、一筋縄ではいかない人々のその生活がとてもリアルに感じられます。そして、終盤の犯人とその意図が明らかになるまでの畳み掛け方も見事で、最後は一気に読んでしまいました。

 海外ミステリのような雰囲気と、詳細な歴史ものとしても楽しめる一作で二度美味しい作品。番外編は時代ががらりと変わるとのことなので、続きも楽しみに読ませていただきたいと思います。

 おすすめです!

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