中世にタイムトリップできる本格ミステリ。このおっさんがかっこいい!

舞台は16世紀のイタリア・フィレンツェ。市民裁判官に任命された彫金師のジャンニ親方は、連続殺人事件の起こるこの街で捜査に当たりますが、前途は多難つづきで……。

無精でだらしない中年男が、持ち前の鋭さで謎を解明していくところがかっこいい。その口から発せられるセリフも小気味よくウイットに富んでいます。力の抜け方とキラリと光る推理力のギャップがなんとも魅力的。
周りをかためる脇役陣も個性豊かです。気持ちが先走りしてしまう若い警吏や、親方に振り回される弟子、そして妖しい人妻……。複雑に絡み合った人間関係が殺人事件と結びつき、先が読めません。
巧妙に散りばめられた伏線から、糸がほどけるように謎が解けていく最後の展開は思わず唸ってしまう面白さです。

時代ものとはいいながら現代にも通じる社会のありかたも興味深い。権力を笠に着る者、悪用する者、そこへ向かっていくことの難しさ、歯がゆさ。16世紀イタリアを舞台にしながら普遍的な人間模様も見せてくれます。

がっつりと歯ごたえのある大作ミステリ。これを読んで中世イタリアに関心を持った方は、おなじ著者による『枝葉末節にこだわる〈西洋中世の日常生活〉』も併せてどうぞ。

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