概要
狩猟民族、シャーマニズム、シベリア諸民族の民話・神話を題材にしています。本編は全92話、外伝四編。完結済みです。
(個人サイト『The Spirit of the Mystic Valley』に掲載している作品の、転載です。)
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!きっと忘れられない旅になる
およそ時代小説という枠組みでさえ、ほとんど描かれることのない新石器時代が舞台の本作。そこでは未だ神秘の樹林に暮らすヒトと、不毛の荒野に文明の道を切り開く人の対立があった。
圧倒的な筆致で描かれるあるがままの自然の姿は、野蛮な闘争を繰り返す文明の歴史という呪われた営みの根本を問う。そこには正邪善悪や美醜はなく、正しき神と教義という幻想も決して手を伸ばすこともない。
『神(テティ)はただ在るのであり、人のためだけの神などいない』
この言葉こそまさしく無為自然を生きる森の民と、本作が提示する『無謬の正義、絶対の神』という世界を今なお蝕む呪いへのアンチテーゼであると私は考える。
あるべ…続きを読む - ★★★ Excellent!!!神霊とともに疾れ。新石器時代のシベリアに息づく魂に触れる、稀有なる体験
遥か昔、遠いシベリアの地には、本当にこんな文化や歴史があったのではないか。
そうだと言われたら信じてしまうほど、血肉と魂を持った人類の生き様がリアルに綴られた、壮大で凄まじい物語です。
五感に訴えかけてくる、厳しくも美しい自然を深く味わうように、毎日少しずつ拝読していました。
約60万字という長い物語ですが、素晴らしく心地よい、稀有なほどの没入感がありました。
あらゆる自然物に宿った神霊と共に生きる森の民の元へ、太陽神を信仰する開拓者・エクレイタ族の使者がやってくるところから、お話は始まります。
互いに穏やかな友好関係を望みつつも、温暖な南の地から極寒の地へと先立って派遣されていたエクレ…続きを読む - ★★★ Excellent!!!汝、還れや、始原の樹林へ
自分自身も書く人間であるからには言葉を尽くしてこの物語について語りたいところではありますが、どうにも、揺さぶられすぎると、脳の言語をつかさどる部分もどうにかなってしまうようです。この一説を目にする度に涙が止まりません。
モミとサルヤナギの木立を歩いて行け
よからぬ考えを抱かず、滑らかな心で歩いて行け……
長いとか短いとか分量とかあんまり考えないでください。時間というのは気づいたら溶けているもので、それ以上でもそれ以下でもありません。取り敢えず読んでください。一緒にタイガへ行きましょう。悲しくても辛くても、ムサ(人間)のことわりとしがらみに巻きつかれようとも、どれだけ絶望に塗れてケレ(悪霊…続きを読む - ★★★ Excellent!!!矢を折って友の証とする。髪の色も言葉も、敬う神さえ違う相手であっても。
神霊に近い狼と人間に近い犬が互いに相容れ難いように、
森の民と麦の民は同じ地で共に生きられないのだろうか。
神々の命に満ちた森に住まう民、アロゥ氏族のビーヴァは、
はるか南方の農耕定住の王国からの使者、マシゥと出会う。
マシゥたちエクレイタの民は新たな畑作の地の開拓を目し、
ビーヴァたちの住まう厳寒の大森林へと近付いたのだった。
ビーヴァの目に映る森のひとびと(動物たちのこと)の姿。
マシゥが畏れ、同時に敬いの念をもいだき始める自然現象。
夏の森の濃密な命の匂い、神々が遊んで織り成すオーロラ、
友と共に見た湖の星、神々の歌う声、もふもふ、ふさふさ。
万物を神霊とするシャーマニズムを通し…続きを読む - ★★★ Excellent!!!雄大なる自然で営まれる素朴な民の生活の破壊と緩やかな再生に息を呑む
厳しくも優しい森に抱かれながら、青年ビーヴァは穏やかに生きていた。氏族の王と、乳兄妹である王の娘ラナと、頼もしい母タミラと、仲間たちと。ビーヴァはある日親を熊に殺された一匹の白い仔狼を拾います。
一見偶然であるような出会いは、実は必然であった。セイモアと名付けられた狼とビーヴァを巡り合わせた原因が明らかになるとき、森の民の穏やかな生活は一度崩壊します。南にある国からの使者として訪れた青年マシゥとビーヴァが築いた友情も。
物語の舞台であるシベリアの自然が雄大で美しいだけ、南からの開拓民の暴虐の凄惨さが際立ちます。目を覆いたくなるほどです。けれども自然の美しさと人間の行いの醜さは表裏一体で、一方…続きを読む - ★★★ Excellent!!!人間の思惑を凌駕してただ存在する神霊たちと、森でともに生き、死す。
〈森の民〉は熊や狼を神と崇め、厳しい自然の中でともに暮らす人々。
四つの氏族を束ねる次代のシャム(巫女)ラナと、狩人のビーヴァは乳兄妹として育った。
ビーヴァは、親を殺された白い狼の仔と出会う。
その頃、南から来た太陽神を崇めるエクレイタ族のマシゥは、友好を求める王の使者として〈森の民〉との接触を図る。
〈森の民〉たちを取り巻く世界には、知らぬうちに、既に変化が生じていた。
自分たちも熊や狼と同じ森の一員であると考える民と。
自然を切り拓き、自分の物として所有し耕作しようと考える民との衝突。
恐らく、世界中の至るところで、起きた事態だと思います。
〈森の民〉の物語だとは思うのですが、私は完…続きを読む - ★★★ Excellent!!!自然と現実の厳しさと、小さな希望
普段なじみのない新石器時代、シベリア。その時代に生きる人々の様子がとても緻密に描き出され、物語が進んでいきます。その知識と表現に感銘を受けました。読み進めるごとに今まで知らなかった世界が広がっていき、彼らのいとおしいほどに穏やかで慎ましい暮らしがいきいきと目の前に見えるようです。素敵です!
その一方、物語では自然と現実の厳しさ(小説の中で現実というのも変な話ですがそれだけ真に迫っています)が容赦なく登場人物を翻弄していき、胸に迫って切なくなります。ままならないこと、取り返しがつかないこと…その厳しさに変わらざるを得ない主人公二人と周りの人物たち。けれどその中で人と人、人と人以外のものとの…続きを読む