矢を折って友の証とする。髪の色も言葉も、敬う神さえ違う相手であっても。

神霊に近い狼と人間に近い犬が互いに相容れ難いように、
森の民と麦の民は同じ地で共に生きられないのだろうか。

神々の命に満ちた森に住まう民、アロゥ氏族のビーヴァは、
はるか南方の農耕定住の王国からの使者、マシゥと出会う。
マシゥたちエクレイタの民は新たな畑作の地の開拓を目し、
ビーヴァたちの住まう厳寒の大森林へと近付いたのだった。

ビーヴァの目に映る森のひとびと(動物たちのこと)の姿。
マシゥが畏れ、同時に敬いの念をもいだき始める自然現象。
夏の森の濃密な命の匂い、神々が遊んで織り成すオーロラ、
友と共に見た湖の星、神々の歌う声、もふもふ、ふさふさ。

万物を神霊とするシャーマニズムを通して描かれる世界は、
触れたことはもちろん見たこともないものではあるけれど、
圧倒的な臨場感で以て読者に迫り、目撃させ、体感させる。
ここに体を置いて、魂だけでそこへ飛んでいくかのように。

己の属する社会と異なるものと出会ったとき、何を為すか。
あるいは、問いを変えるならば、何も為さずにいられるか。
争いを捨てて生きてきた森の民は闘わねばならなくなった。
闘いの形を巡って葛藤する人間の姿を神々はただ見ている。

ビーヴァの透明感とマシゥの誠実さ、狼と犬のふさふさが、
やるかたなくも展開されてしまう過酷な物語の救いとなる。
毅さと弱さ、賢さと愚かしさ、表裏一体の価値観の狭間で。
悲劇と友情が語り継がれ、平穏が続くことを願ってしまう。

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