人間の思惑を凌駕してただ存在する神霊たちと、森でともに生き、死す。

〈森の民〉は熊や狼を神と崇め、厳しい自然の中でともに暮らす人々。
四つの氏族を束ねる次代のシャム(巫女)ラナと、狩人のビーヴァは乳兄妹として育った。
ビーヴァは、親を殺された白い狼の仔と出会う。
その頃、南から来た太陽神を崇めるエクレイタ族のマシゥは、友好を求める王の使者として〈森の民〉との接触を図る。
〈森の民〉たちを取り巻く世界には、知らぬうちに、既に変化が生じていた。

自分たちも熊や狼と同じ森の一員であると考える民と。
自然を切り拓き、自分の物として所有し耕作しようと考える民との衝突。
恐らく、世界中の至るところで、起きた事態だと思います。
〈森の民〉の物語だとは思うのですが、私は完全にマシゥ側から読んでいました。
エクレイタの他の開拓民たちは〈森の民〉を蛮人と見下しますが。
マシゥは、信じる神が違っても、お互いに尊重しようとする。
ビーヴァたちの生き方こそがこの地では相応しいと認め、友情を育もうとする。
けれどもその裏で、彼の知らない策略が――。

エクレイタがこの地に来なければ、接触しようと考えなければ。
ビーヴァたちは、ずっと、今までと同じように暮らせていたのだろうか?

長い物語ですが、私は『第一章 狼の仔』ラストまで読んだら、先が気になってやめられなくなりました。
いきなり58万字にチャレンジするのは躊躇う場合は、同じ著者さまの短編集『掌の宇宙』や、本作品の前日譚『不思議な小太鼓』を読んでみてはいかがでしょうか。
この方がこの題材で書く作品なら58万字でもいける、と感じると思います。


キシムが一番好きです。
ビーヴァとマシゥの二人旅(ソーィエとセイモアもいますが)は、個人的に、ル・グィン『闇の左手』を思い出しました。

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