第2話 交わらない日常

すると、姉貴はこっちに背を向けたまま返した。


「だって、二人分作ってるんだもん」


「……二人分って、何だよ?俺のも作ってんのかよ?」


「だって由哉、学食の菓子パンばっかり食べてるんだもの」


「いいじゃん、菓子パン。カレ-パンとか、ポテサラのとか旨いんだぜ?」


「それだと、栄養が偏っちゃうじゃない?お弁当で、いろんな物食べた方がいいのよ」


「ったく、自分のだけ作ってろよ」


「一人分作るのも、二人分作るのも変わらないから」


ああ言えば、こう言う。姉貴は頭も口も回る女だ。


「いつ朝飯食うんだよ?マジ遅刻するからな」


「大丈夫よ。お弁当に詰めながら、食べてるから」


「おい。かじりかけの唐揚げとか入れんなよ?」


「バッカじゃないの?入れるわけないでしょ!」


軽く怒った声をあげる姉貴をよそに、俺は食い終わった食器を運び、流しに置いた。


ちらりと横目で、姉貴を盗み見る。


普段は下ろしてる背中半ばまでの黒髪をバレッタで留めてアップにしている。綺麗な線を描く白い首筋に、つい釘付けになった。火の側にいて暑いのか、頬から首へと細い汗が伝う。


うっかり見とれていると、不意に姉貴が、こっちを睨んできた。


「何よ、まだ文句あるの?」


ドキッとして、慌てて視線を反らす。


「何も言ってねーだろ」


まさか見とれてたのがバレてはないと思うが、何となく感じる罪悪感に、さっとその場を離れた。


もちろん、15センチの壁を越えずに。


もう家の玄関を出るという時に、姉貴が慌てて弁当を持ってきた。


「はい」


そう言って、俺の方へ青い布で覆われた弁当を差し出してくる。……普通なら、手渡しするんだろう。俺だって、それぐらいは構わないのかもしれない。


だけど。


「そこ、置いとけよ」


「え、何でよ?受けとればいいじゃない」


「靴履いてるとこだから。置いとけよ、そこに」


「もう~!ちゃんと持ってってよ?」


「分かったって。早く自分の支度しろよ?本格的に遅刻するぞ」


「じゃね!」


俺の言葉に、姉貴は慌てて洗面所の方へと走って行った。まだ髪のセットとかがあるんだろう。女の支度は、ほんとに面倒くさそうだ。俺は弁当を掴むと、学校指定のカバンに入れて、姉貴より先に家を後にした。


家の駐車場の端に置いてある自転車に乗ると、学校を目指し走り始める。七月の熱をはらんだ風が、髪の間を通り抜けていく。


八時少し前だというのに、気温は容赦なく上昇していた。朝の光を浴びて輝き始めた川縁を走り、十分くらいで学校に着く。

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