15センチの先
月花
第1話 線引き
15センチって決めていた。その先にいけば……自分を止められそうにないから。
「ねぇ~いつまで寝てるの?起きなよ、遅刻するよ~!」
凛とした声が、夢と現実の狭間で耳をくすぐる。本音は、もうちょい、この眠気をむさぼりたいけど……。
「分かったよ、起きるからさ。ていうか、何回言ったら分かんだよ?ノックなしで入って来んなっつってんだろ?」
俺はベッドの中で半身を起こしながら、ボヤいた。すると、尖らせた口から漏れる不満が聞こえてくる。
「なに言ってんのよ?他人じゃないんだし、部屋ぐらい入ったっていいじゃない」
他人じゃない、か……。
ダメなんだよ、それじゃ。
俺の中じゃ、それ理由にならないんだよ。
「うっせ~な、朝から。今から着替えるんだから出てけよな」
「はい、はい」
諦めたように、部屋から出ていく姉貴。
「はぁ……」
髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜた。胸の鼓動がまだ少し速い。ベッドまで来る勢いだった。そんなことされたら……15センチを越えてしまう。
(朝から心臓に悪いな)
俺はベッドを離れてクローゼットに行くと、Tシャツとジャージを脱ぎ捨て、高校の制服を取り出した。代わり映えのない制服に着替えながら、姿見の中の自分を見つめる。
「似てねー」
鏡の中の自分と姉貴を重ねて、呟いた。
目も鼻も口も、中身も。何一つ似てない。
なのに家族って、どういうことだよ?
ネクタイを締めながら、自分の運命を呪った。
階下に降りると、母さんと姉貴がキッチンに立っている。
「
「ああ」
俺のテーブル席には、白いプレートに、トマト、レタス、スクランブルエッグ、バタートーストが乗っていた。席に着き、テレビから流れてくる朝の情報番組を何となく聞き流しながら、トーストに手を伸ばす。
「綺麗に出来たじゃない」
母さんの声に、上半身だけキッチンに向けると、姉貴が焼き上げた卵焼きを皿に移している。
「だんだんコツが分かってきたのよ」
ちょっと誇らしげな声で言う姉貴。
高校に入ってから、姉貴は自分で弁当を作り始めた。それからお菓子作りもブームなのか、よくクッキーなんかを渡される。昨年のバレンタインには手作りチョコも、もらったっけ。
「甘いもん好きじゃないんだよな」とか言いながらも、しっかり食べた。家族に渡すチョコレートなんて、もはや義理ですらないのかもしれないが。それでも、姉貴が作った何かを食べるのは嬉しい。
そんな本音言ったら、キモいだけだろうけど。
「姉貴。そんな悠長に弁当作ってると、学校遅れるぜ?」
俺は、スクランブルエッグを半分に折ったト-ストに挟むと、かぶりつく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます